法律改正2024年(その6)

2024.04.15

法的支援

2024年に施行される事業者が知っておくべき法律改正情報について概説します。
1.労働条件の明示          9.電子帳簿保存法法
2.時間外労働の上限規制       10.不当景品類及び不当表示防止法
3.健康保険・厚生年金保険      11.意匠法
4.裁量労働制            12.商標法
5.障害者雇用率の引き上げ      13.不正競争防止法
6.障害者差別禁止法         14.不動産登記法
7.フリーランス保護新法(前号まで) 15. 民事訴訟法
8.労働安全衛生法          16.民法                   

8.労働安全衛生法(2024年4月1日施行)
職場の化学物質管理の対象となる物質を大幅に拡大し、より合理的にリスクアセスメントを実施するために政省令改正が行われ、従来の「個別規制型」から事業主による「自律的な管理」への移行を促進するべき、政省令等が改正されました。
①安衛法57条の3でリスクアセスメント等が義務付けられている危険性・有害性のある化学物質(「リスクアセスメント対象物」)に、国によるGHS分類で危険性・有害性が確認された全ての物質が順次追加されます。このうち、国によるGHS分類の結果、発がん性、生殖細胞変異原性、生殖毒性、急性毒性のカテゴリーで区分1に分類された234物質がラベル表示等の義務対象に追加されました。ただし、2024(令和6)年4月1日時点で現存するものには、2025(令和7)年3月31日までの間、安衛法第57条第1項のラベル表示義務の規定は適用されません。
https://www.jniosh.johas.go.jp/groups/ghs/arikataken_report.html
②リスクアセスメント対象物のうち、一定程度のばく露に抑えることで労働者に健康障害を生ずるおそれがない物質として厚生労働大臣が定める物質(濃度基準値設定物質)は、屋内作業場で労働者がばく露される程度を、厚生労働大臣が定める濃度の基準(濃度基準値)以下としなければならず、当該措置の内容と労働者のばく露の状況を、労働者の意見を聴く機会を設け、記録を作成し、3年間(がん原性のある物質として厚生労働大臣が定めるもの(がん原性物質※)は30年)保存しなければなりません。
③皮膚・眼刺激性、皮膚腐食性または皮膚から吸収され健康障害を引き起こすことが明らかな化学物質と当該物質を含有する製剤を製造し、または取り扱う業務に労働者を従事させる場合には、その物質の有害性に応じて、労働者に障害等防止用保護具を使用させなければなりません(改正前は努力義務)。
④衛生委員会の付議事項に、濃度基準値の設定物質について、労働者がばく露される程度を濃度基準値以下とするために講ずる措置に関すること、リスクアセスメントの結果に基づき事業者が自ら選択して講ずるばく露低減措置等の一環として実施した健康診断の結果とその結果に基づき講ずる措置に関すること、濃度基準値設定物質について、労働者が濃度基準値を超えてばく露したおそれがあるときに実施した健康診断の結果とその結果に基づき講ずる措置に関することが追加されます。
⑤労働災害の発生またはそのおそれのある事業場について、労働基準監督署長が、その事業場で化学物質の管理が適切に行われていない疑いがあると判断した場合は、事業場の事業者に対し、改善を指示することができます。改善の指示を受けた事業者は、化学物質管理専門家(厚生労働大臣告示で定める要件を満たす者)から、リスクアセスメントの結果に基づき講じた措置の有効性の確認と望ましい改善措置に関する助言を受けた上で、1か月以内に改善計画を作成し、労働基準監督署長に報告し、必要な改善措置を実施しなければなりません。
⑥リスクアセスメントの結果に基づき事業者が自ら選択して講ずるばく露低減措置等の一環として、リスクアセスメント対象物による健康影響の確認のため、事業者は、労働者の意見を聴き、必要があると認めるときは、医師等(医師または歯科医師)が必要と認める項目の健康診断を行い、その結果に基づき必要な措置を講じなければなりません。
⑦リスクアセスメント対象物を製造、取扱い、または譲渡提供をする全ての事業場(業種・規模要件なし)で、化学物質の管理に関わる業務を適切に実施できる能力を有する者を化学物質管理者に選任しなければなりません。リスクアセスメント対象物を製造する事業場においては、選任すべき事由が発生した日から14日以内に、厚生労働大臣が定める化学物質の管理に関する講習を修了した者等のうちから選任しなければなりません(施行規則第12条の5第3項)。事業者は化学物質管理者を選任したときは、当該化学物質管理者の氏名を事業場の見やすい箇所に掲示すること等により関係労働者に周知する必要があります(施行規則12 条の5 第5項)。事業者は、化学物質管理者を選任したときは、当該化学物質管理者に対し、以下の職務をなしうる権限を与えなければならなりません(同条4項)
(a) ラベル表示および安全データシート(SDS)交付に関すること(リスクアセスメント対象物を含む製品をGHS(国連勧告「化学品の分類および表示に関する世界調和システム」に基づく分類)に従って分類し、ラベル表示および安全データシート(SDS)交付を行う作業の管理(ラベル表示およびSDS の内容の適切性の確認等))
(b) リスクアセスメントの実施に関すること(リスクアセスメントを実施すべき物質の確認、取扱い作業場の状況確認(当該物質の取扱量、作業者数、作業方法、作業場の状況等)、リスクアセスメント手法(測定、推定、業界・作業別リスクアセスメント・マニュアルの参照など)の決定および評価、労働者へのリスクアセスメントの実施およびその結果の周知等)
(c) リスクアセスメント結果に基づくばく露防止措置の内容および実施に関すること(ばく露防止措置(代替物の使用、装置等の密閉化、局所排気装置または全体換気装置の設置、作業方法の改善、保護具の使用など)の選択および実施についての管理)
(d) リスクアセスメント対象物を原因とする労働災害が発生した場合の対応に関すること(実際に労働災害が発生した場合の対応、労働災害が発生した場合を想定した応急措置等の訓練の内容および計画を定めることの管理)
(e) リスクアセスメントの結果等の記録の作成および保存ならびに労働者への周知に関すること(①~④の事項等を記録・保存、リスクアセスメント結果の労働者への周知の管理)
(f) リスクアセスメントの結果に基づくばく露防止措置が適切に施されていることの確認、労働者のばく露状況、労働者の作業の記録、ばく露防止措置に関する労働者の意見聴取に関する記録・保存ならびに労働者への周知に関すること(ばく露防止措置等について1年を超えない期間ごとに定期的に記録を作成し、3年間(リスクアセスメント対象物であり、かつがん原性物質の場合には30年間)保存し、労働者に周知)
(g) 労働者への周知、教育に関すること(①~④を実施するに当たっての労働者に対する必要な教育(雇入れ時教育を含む)の実施における計画の策定や教育効果の確認等の管理)