中小企業と財務諸表(その3)

2024.03.11

企業支援

財務諸表とは、会社がその活動に伴う財務状況を明らかにするために、会計年度1年毎に作成される一連の決算書類のことを言い、会社法上では、損益計算書(Profit & Loss Statement、P/Lと略称)、貸借対照表(Balance Sheet、B/Sと略称)、株主資本等変動計算書および個別注記表から成ります。なお上場企業の場合は、金融商品取引法の遵守が義務付けられますので、キャッシュフロー計算書および附属明細表が加わります。
起業からまもない中小企業のトップにとって、財務諸表・決算書はどういう意味をもつか、どう係わっていくべきか、提言も含めお話ししたいと思います。

1.財務諸表の作成(1正しい財務諸表をつくるには 2財務諸表を役立てるには)
2.財務諸表の活用(1事業計画の作成 2事業計画と決算の対比・レビュー 3会社業績の分析 4ステイクホルダーへの開示)(以上前号まで)
3.財務諸表の個別の役割(1損益計算表(P/L) 2貸借対照表(B/S) 3株主資本等変動計算書 4個別注記表 5キャッシュフロー表(資金繰り表))
4.財務諸表を用いた分析(1収益性分析 2安全性分析 3生産性分析)
5.最後に

3.財務諸表の個別の役割

3-1.損益計算表(P/L)
企業が一会計期間内に、いくらの利益が出たかを表す計算書類になります。売上等収益より、取引に固有の費用である売上原価を減じて売上総利益(粗利)を算出し、さらに人件費、事務所家賃、広告宣伝費・旅費・通信費他多項目にわたる変動経費を減じて営業利益を算出し、さらに金利など営業外収益・費用を加減して経常利益、資産売却損益など継続的取引でない利益・損失を加減して経常損益を算出します。
企業の収益性をはかるのに有効な書類です。2-1、2-2で述べた通り、売上・売上原価を分類すると、商品毎、顧客毎、事業分類毎の収益性が分かり、より有効です。

3-2.貸借対照表(B/S)
企業の資金の調達状況(右欄、負債+純資産)と、その運用状況(左欄、資産)を示し、企業の財政状態を表す計算書類になります。
企業の安全性、すなわち支払い能力をはかるのに有効な書類です。
また書類上の数値は、月末時点、決算日時点などの交代で表され、資料は継続して加減算されますので、P/Lでは判別できない変動が分かり、異常値・危険値を見つけることができる書類でもあります。

3-3.株主資本等変動計算書
貸借対照表の純資産の部の一会計期間における変動額のうち、主として、株主に帰属する部分である株主資本の各項目の変動事由を報告するために作成される決算書です。剰余金の配当の時期自由化にともない決算期間中の株主資本の増減を明確にすべく、会社法により、新たに計算書類として設定されました。増資・配当実施などの事例が該当する場合には重要な書類となりますが、該当事由が無い場合はフォーマットに従い作成するのみで良いでしょう。

3-4.個別注記表
会計方針に関する注記を一覧表示する書類です。上場会社でない場合は「重要な会計方針に係る事項に関する注記(資産の評価基準など)」「株主資本等変動計算書に関する注記(会計年度末日の発行済株式数など)」および「その他の注記(有形固定資産の減価償却累計額など)」に絞り記載します。創業費、事務所造作、事務所機器以外の資産を保有する場合は税理士・会計士と相談しての記載が必要となります。

3-5.キャッシュフロー表(資金繰り表)
キャッシュフロー表とは、事業者が一定期間に得た現金・預金の収入や支出をまとめ、お金の流れを可視化した集計表です。過去のデータを「実績」としてまとめただけでなく、将来の資金計画を表す「予定」についても記載した表になります。事業運営のための資金は不足ないか、金融機関からの借入など資金投入のタイミングはいつとすべきかを示すものであり、財務諸表には含まれていませんが、企業にとりP/LやB/Sに並んで重要な書類です。支払が滞る、継続の可否が深刻な問題となる、などの事態に陥らない様に、必ず準備しておくべきです。
前述の会計ソフトで、実績に関してCSV形式でアウトプットできるものもあります。エクセルに変換後、予定を入力する方法が、実績を反映することで支払の漏れを防ぎ、支払のタイミングの正しい認識を得ることが出き、有効です。
(余談ですが融資実行前の検討段階や実行後のレビューにおいて提出を要求する際に「金繰り」と略す金融機関担当者もおります。切羽詰まった感のある嫌な響きの言葉です。事前に準備しておいて要求される前に提出できる様にしておきたいものです。)