中小企業と財務諸表(その2)

2024.02.26

企業支援

財務諸表とは、会社がその活動に伴う財務状況を明らかにするために、会計年度1年毎に作成される一連の決算書類のことを言い、会社法上では、損益計算書(Profit & Loss Statement、P/Lと略称)、貸借対照表(Balance Sheet、B/Sと略称)、株主資本等変動計算書および個別注記表から成ります。なお上場企業の場合は、金融商品取引法の遵守が義務付けられますので、キャッシュフロー計算書および附属明細表が加わります。
起業からまもない中小企業のトップにとって、財務諸表・決算書はどういう意味をもつか、どう係わっていくべきか、提言も含めお話ししたいと思います。

1.財務諸表の作成(1正しい財務諸表をつくるには 2財務諸表を役立てるには)(前号)
2.財務諸表の活用(1事業計画の作成 2事業計画と決算の対比・レビュー 3会社業績の分析 4ステイクホルダーへの開示)
3.財務諸表の個別の役割(1損益計算表(P/L) 2貸借対照表(B/S) 3株主資本等変動計算書 4個別注記表 5キャッシュフロー表(資金繰り表))
4.財務諸表を用いた分析(1収益性分析 2安全性分析 3生産性分析)
5.最後に

2.財務諸表の活用

2-1.事業計画の作成
企業のトップは、売上・利益の今年の事業目標(短期経営計画)、向こう数年の事業目標・事業ビジョン(中長期経営計画)を作成し、計画達成のための施策を実行しながら会社を運営します。この経営計画の作成に財務諸表を利用しましょう。前述の会計ソフトよりCSV方式でP/Lを出力できますので、エクセルに変換し、以下の加工をおすすめします。
*売上・売上総利益:顧客・商品などの分類で内訳を分解。
*販売費・一般管理費(以下「販管費」):人件費、事務所家賃、広告宣伝費・販促費、減価償却費など括り小計。
*構成比(売上を100とする)、前年同期比、前月比なども盛込む。

2-2.事業計画と決算の対比・レビュー
事業計画と月次試算表のP/Lを比較し、達成度合いと売上・売上総利益、販管費の増減の内訳・背景を把握します。月次試算表には連続性・継続性がありますので、レビューに最適のツールであり、レビューを重ねるほど、会社の収益の構造や傾向が見えてくると思います。毎月のレビュー時に、計画達成のために現状のままで良いのか、施策の修正・追加を実施するか、の検討・決定を行うのが良いでしょう。

2-3.会社業績の分析
財務諸表を分析することにより、会社の収益性、生産性・効率性や、安全性の分析ができます。
詳細は後述しますが、会社の実態を把握するとともに、同業他社で成功した企業の分析も行うことにより、自社の問題点・課題、あるべき・目指すべき姿を想定することも可能になります。

2-4.ステイクホルダーへの開示
1) 株主には、利益配当金を受け取る権利や事業解散時の残余財産の分配をうける権利が約束されています。会社の経営状態は、当然株主にとっての関心事であり、既存株主には報告を行う必要があります。(中小企業の場合、経営者自らが創業者であり筆頭株主でもあるというケースが多いと思いますが、創業時支援者、かつての共同経営者といった、複数の株主が該当する例はあり、その場合は開示が必要です。)
2) 報告義務はありませんが、取引の実現のために、あるいは関係性維持・円滑化のために報告が必要となってくるステイクホルダーは以下になります。
*投資家: 個人投資家、ベンチャーキャピタル等機関投資家があなたの会社に興味をもち、出資を検討する場合もあるでしょう。取引先が関係性強化のために出資を希望する例もあります。出資金が有効に活用され会社の業績に寄与することが求められますので、経営状況、経営構造の実績を把握し、事業計画の実現性を判断するため必ず提出を求められます。
*金融機関: 融資金が回収されるかは金融機関にとり最優先事項ですので、その安全性の確認のため、資金を借り入れる時に、また借入実施後も定期的に、必ずその提出を求めてきます。
*取引先: 取引先が大手企業の場合、取引の信用性・社会性の担保のため財務諸表の提出が求められる場合があります。またあなたの会社から取引先へ支払が行われる場合は与信管理の側面で同じく提出を求められる場合があります。
3) 従業員へ開示するか否か、これはトップその状況に応じ対応を考える課題です。
勿論、開示義務はありませんし、社長や従業員の給与レベルが有る程度わかってしまうことへの危惧、会社業績が他に第三者に漏れる可能性が高まることを考慮して開示しない、という考え方はあります。一方で、従業員に決算を開示することにより、事業計画達成に向け同じ方向を向かせやすくなる、利益と給与の関係性を理解させることにより売上総利益アップ、経費削減の必要性を共有できる、といった良い点も考えられます。
後者の肯定の根拠はやや理想形であり、会社の業績が安定し一定の成長性が望める、従業員各自に自己の役割や業務分担の文化が根付く、というステージに到達するまでの間は、売上・売上総利益、販管費中の従業員の自主的関与が高い費用(例えば広告宣伝費)のみ別資料にて開示し、理想形への足掛かりとするのが良いかな、と個人的には思います。