事業承継M&A 雑感(完)

2024.01.26

企業支援

中小企業の後継者不足解消方法の一つとして、事業承継M&Aが認知されるようになってきました。以下では、事業承継M&Aの背景、意義、手法、留意点等について述べます。

1.背景
2.事業承継M&Aとは
3.事業承継M&Aの手法(以上前号まで)
4.デュー・ディリジェンス
5.対価の決め方
6.各手法のメリット・デメリット
7.留意点

4.デュー・ディリジェンス
デュー・ディリジェンスの目的は、対象企業又は対象事業に関する隠れた債務やリスクを確認することと考えます。それにより、リスク要因の除去軽減を取引条件とすることや潜在債務を対価に反映することが可能になるからです。
デュー・ディリジェンスでは、一般的に、秘密保持契約の締結⇒買主から売主に対する資料情報提供の開示請求⇒買主による資料情報の提供(専用のデータルームを開設することもあります。)⇒買主によるインタビュー⇒買主による監査レポートの作成という流れになります。規模によっては、多数の弁護士や会計士が関与することもあります。
買主が求める資料情報は、会社設立・株式発行に関する議事録(特に株式譲渡や合併の場合)、定款・就業規則その他の社内規定、重要な取引契約、借入契約、許認可証、官公署とのやりとり(是正勧告、行政指導等)、苦情処理記録、訴訟その他の紛争及び潜在的紛争、財務資料、知的財産権等、多岐にわたります。対象企業は、資料情報の開示請求に応じるためにそれなりの労力を覚悟する必要があります。
5.対価の決め方
事業承継M&Aの対価の決め方としては、対象企業又は対象事業が将来生み出す価値の現在価格を基準とする方法(将来のキャッシュフローによる方法・将来の配当金による方法)、市場価値を基準とする方法(株価による方法・類似企業の株価による方法・類似取引の売買価格による方法)、現在の企業価値を基準とする方法(純資産時価による方法・純資産時価に直近の事業成績を加味する方法・貸借対照表の純資産額による方法)等があります。より高く売りたい売主とより安く買いたい買主の思惑が異なるため、双方が専門家の助けを要する場合が多いと思います。
6.各手法のメリット・デメリット
会社全体を承継させたい場合は株式譲渡又は合併、特定の事業のみを承継させたい場合は事業譲渡又は会社分割が適しています。株式会社の場合は比較的単純ですが、その他の手法による場合は、複雑な手続(債権者保護手続、従業員保護手続等)が必要になります。
7.留意点
中小企業の事業承継では、専門の仲介業者が関与することがあります。築き上げた企業を次世代に承継してもらうことを希望する経営者にとっては、承継先を斡旋してくれる仲介業者のサービスは渡りに船といえますが、以下の点に留意する必要があります。
①仲介業者の報酬
仲介業者の中には売買価格に関係なく最低1000万円というところもありますが、数百万円というところもあります。報酬の内訳は不明ですが、もしデュー・ディリジェンスの費用が含まれているのであれば、それは本来買主が負担すべきであり、売主がそれを肩代わりさせられていることになります。いずれにせよ、仲介業者の選定に際しては、相見積もりを取って納得できる仲介業者を選ぶべきです。
②対価の算定方法
仲介業者が売主と買主の間に立って公平な取扱をしてくれるとは限りません、仲介業者が提示する対価は、買主の意向を反映している場合があります。中小企業の経営者にっってみれば、何々法に基づいて算出した金額、と言われてもそれが妥当なのかどうか判断できない場合が多いと思われます。スクラップ価格(資産をばら売りした価格)よりも安い金額を提示される場合もあります。従って、対価の算定方法については、専門家の意見を確認することをお薦めします。
③対価の支払時期
通常の企業間のM&A取引では、対価は取引完了日(クロージング日)に支払われるのが通常ですが、後払い(数年後等)を提案される場合があります。対価がクロージング日に支払われない場合は、契約条件にもよりますが、売主がクロージング日後の対象企業又は対象事業のリスクや買主の信用リスク(買主の倒産等)を引き受けることを意味します。従って、対価の支払時期については、クロージング日とすることをお薦めします。
④契約書
仲介業者が提示する契約書は、仲介業者の雛形に基づいている場合がありますが、買主保護に偏っている可能性もあります。例えば、本来買主が負担すべきクロージング後の事業の損失分を対価から駆除するといった規定が考えられます。従って、不当な規定が紛れ込んでいないかのチェックが必要です。
事業承継M&Aは、後継者が見つからない経営者にとって有効な手法ですが、築き上げた企業が公正妥当な対価をもって承継されるためには、必要な範囲で専門家の助力を得ることが必要と思われます。