働きやすく働き甲斐のある組織づくりに向けて(完)

2023.12.29

企業支援

ヒトは生活や仕事をする上で、物理的な接触刺激がないと安心できないし活力が生まれないということを、ビジネスとは少しかけ離れた話から始めたい。

序論
課題1:人権DDを手順通りに形を整える、ことに汲々となっていないか?
課題2:本来的に、PDCAサイクルを回す仕組みになっているか?(以上前号まで)
課題3:仕事への意欲が湧く仕組みがビルトインされているか。(全従業員が「働きやすさ」と「働き甲斐」の両方を感じる組織になっているか?)
まとめ:職場風土の改善に向けて

課題3:仕事への意欲が湧く仕組みがビルトインされているか。(全従業員が「働きやすさ」と「働き甲斐」の両方を感じる組織になっているか?)
ハーズバーグ理論によれば、働く意欲や満足度は「衛生要因」と「動機づけ要因」の二つの要因で決定すると言われている。「衛生要因」とは、職場で安全安心が確保されていると「働きやすさ」を感じ、逆にこれがないと不安や働きにくさを感じるような要因を指す。「動機づけ要因」とは、難しい仕事を達成した時などに「働き甲斐」としての満足感を感じ、逆にこれがないとやる気が起きないような要因を意味する。
この考え方を援用して考えてみると、人権DDの活動はコンプライアンス遵守による「働きやすさ」の改善、即ち「衛生要因」だけに焦点を当てた活動である。このためハーズバーグ理論に従えば、人権DDだけでは不十分ということになる。人権DD実施により職場の不安感を取り除き「働きやすさ」を改善させながら、同時に、動機づけ要因である「働き甲斐」の向上にも注目して、従業員の満足度そのものを引き上げる。「衛生要因」と「動機付け要因」の二つの要因が満たされることで、職場のモチベーションが保たれ、仕事の満足度は向上すると思われるからだ。

<働きやすさと働き甲斐の関係性>
従業員エンゲージメント調査(働き甲斐の意識調査)
 【高い場合】
人権DDアンケート調査(働きやすさの意識調査)
高い: 職場不満がなく仕事意欲が高い 
低い: 職場不満あるが仕事意欲は高い 

従業員エンゲージメント調査(働き甲斐の意識調査)
 【低い場合】
人権DDアンケート調査(働きやすさの意識調査)
高い: 職場不満はなく仕事意欲が低い
低い: 職場不満があり仕事意欲も低い

まとめ:職場風土の改善に向けて
もう少し大きな視点に立って考えれば、経営者にとって一番大事なことは、職場風土の改善ということになろう。例えば、企業風土に問題があると、上意下達のみで自由な議論がしにくい雰囲気、非合理的な数値目標がプレッシャーになり過度な緊張感を生んでいる状況、不都合な問題が上に伝わらずリスクが常態化、といった状況が露呈する。
こうした職場環境を変革していくためには、企業風土そのものを改善していくことが重要となる。それでは、安心して「働きやすい」職場環境をつくりながら、同時に、意欲的に仕事に取り組む「働き甲斐」のある職場づくりを達成していくための、有効な手立ては何だろうか。ここでようやく、冒頭で紹介した話を思い出してほしい。

重要と思われることは、会社としての明示的な倫理・行動基準があることは当然の前提にして、結局のところ、人権DDや従業員エンゲージメントなど難しい言葉を使って理屈で理解してもらうのではなく、存外、動物であるヒトには物理的な刺激がモノをいうのではないか。例えば、日常の職場での何気ない普段の声かけや、落ち込んだ時の肩ポンや、首尾よく上手く仕事が進んだ時のにっこり笑っての握手など、単純だが、こうした物理的な接触刺激をおこなうことが効果的ではないかと思う。
こうした人間的な温かみのある関係を自ら率先垂範して、まず周囲の人たちに対して意図的に示していくことが、経営者として一丁目一番地にやるべきことではないか。そうすれば、必ずや幹部や上位社員の目に模範的な行動として映り、自分たちも真似ることで組織全体に伝播していく。
現場の従業員は、自分をひとりの人間として気にかけてくれている、自分の意見を尊重して聞いてくれる、と皮膚感覚で感じとることができる。仲間や職場への安心感や信頼感を持つとともに、仕事へのヤル気にスイッチが入り、職場全体の風土を改善させていくことに繋がっていくのではないか。
(正直なところ、きりがないと思われる)人権DDやエンゲージメントの細かいルールづくりとその徹底もさることながら、ヒトが本来的に持つ、関係づくりにおける接触刺激の重要さを信じ、これを中心軸に据えた職場風土改善の活動を進めることが適切ではないかと考える。
最後に、マネジメント論の泰斗ピーター・ドラッガー教授の言葉を紹介し、本稿を締めくくる。Culture eats strategy for breakfast. 「職場風土は戦略に勝る」