働きやすく働き甲斐のある組織づくりに向けて(その2)

2023.12.11

企業支援

ヒトは生活や仕事をする上で、物理的な接触刺激がないと安心できないし活力が生まれないということを、ビジネスとは少しかけ離れた話から始めたい。

序論(前号)
課題1:人権DDを手順通りに形を整える、ことに汲々となっていないか?
課題2:本来的に、PDCAサイクルを回す仕組みになっているか?
課題3:仕事への意欲が湧く仕組みがビルトインされているか。(全従業員が「働きやすさ」と「働き甲斐」の両方を感じる組織になっているか?)
まとめ:職場風土の改善に向けて

課題1:人権DDを手順通りに形を整える、ことに汲々となっていないか?
人権DDの求める要件を満たしながら進めることは、確かに大変面倒なことだと思う。人権DDが新規な管理手法であるために、担当の管理部署からのお仕着せになりやすく、現場が活動主体となる仕組みになりにくくなるのは想像に難くない。このため、形式的な法令違反チェックや表面的な再発防止策の策定などルールベースの活動、管理部門中心の局所的対応、などにより、肝心の現場でいわゆる『コンプラ疲れ』が生じていないか、確認することを勧めたい。
人権リスク管理の全体的枠組みのあるべき姿は、①事業部門による自律的管理、②管理部門による牽制機能、③監査部門による検証確認、という体制の構築設計が望ましく、そのために必要な対策を講じることが重要になる。

経営マネジメントは、自らの積極的なコミットメント姿勢は当然として、現場が生き生きと人権擁護活動のオーナーシップを持って活動するための前提は何か、というような発想が必要ではないか。例えば、社内サークル活動や社員食堂利用の昼食食事会など、社員間のコミュニケーションを活性化させる仕組みを組織内に組み込むこと、などどうだろう。会社生活の中で、社員同士が積極的に交流する場をつくることが、管理部門による他律的なルールベースや自己中心的な発想からの“やってはならないマインド”から、現場部門による自律的な誠実さや弱者への配慮から“やるべきではない、他者との良い関係を築くマインド”への転換を図ることにつながるものと思われる。

課題2:本来的に、PDCAサイクルを回す仕組みになっているか?
先駆的に人権DDの仕組みを導入して、情報開示を既に行っている各社の公表内容を吟味してみると、人権課題を上手く整理し各種の予防措置対策の記述はかなり充実しているため、一見すると上手く機能しているかのような印象を受ける。しかしながら、効果の確認に時間的経過が必要という事情もあるだろうが、モニタリング評価の公表内容が圧倒的に不足している場合が多い。このため、正直なところ、効果の程度が良く理解できない発表内容が散見される。もちろん、社内的にモニタリング評価した中には機微情報も含まれており、そのままでは外部公開できない性質の情報が含まれているということもあるだろう。それを考慮しても、多くの企業の情報開示の内容は限定的なものになっている。

実際には、予防措置の全てが都合よく上首尾に進むわけはないはずであり、上手く行ったことと行かなかったこと、その原因についての考察を自省的に記述したほうが、公表内容の信憑性を高めて、計画立案→実行→検証評価→改善対策→計画立案というPDCAサイクルを、着実に実施しようとする企業姿勢が好感を持って受け入れられると思われる。

効果検証を行うにあたり、事前に、予防措置の改善目標を数値化して捉えておくことが、大事である。仮説と現実の乖離を数字で理解できれば、仮説検証がより明確になる。予防措置はあくまで仮説から策定されたものであるため、全てが予定調和的に上手くいくとは限らない。もし期待通りの結果が出ない場合は、効果測定のやり方の問題か、予防措置そのものの問題か、吟味する必要がある。それでも、改善効果が認めにくいとなった場合には、さらに上流に遡って、元々設定した人権リスク課題の領域(人、場所、時間など)が見誤っていないかどうか、振り返る必要がある。つまり、検証評価は、「課題設定」と「予防措置」の両方に対して確認する視点が重要と思われる。
人権問題に関する潜在的リスクの前広察知と、顕在化前段階で未然に防止するという基本目的のために、課題設定とその予防措置の双方について、数値目標を設定した上で、仮説の検証作業をしっかり実施する、というPDCAサイクルを回し、徐々に組織内に平準化標準化の仕組みをビルトインしていく、こうした姿勢が本当の改善活動につながる。