IPOをめざそう(その3)~IPOの関係者(完)

2023.10.16

企業支援

今回は、IPOの準備に必要な関係者の役割と選び方について説明します。IPOには様々な関係者が上場申請会社をサポートしていくことになりますが、必ず必要となる関係者には、証券会社、監査法人、株式事務代行会社があります。そのほか、証券印刷会社、ベンチャーキャピタル、IPOコンサルティング会社、弁護士・税理士・社会保険労務士などの専門家が、必要に応じ登場します。必須となる証券会社、監査法人、株式事務代行会社と、ほとんどの会社が利用している証券印刷会社について説明していきます。


1.証券会社
(1) 主幹事証券会社、幹事証券会社、引受証券会社
(2) 主幹事証券会社の役割
(3) コンフリクト
(4) 主幹事証券会社の選び方(以上前号まで)
2.監査法人
3.株式事務代行会社
4.証券印刷会社

2.監査法人
上場申請時に直前々期・直前期の2期間の財務諸表を取引所に提出しますが、財務諸表は監査法人による金融商品取引法に準ずる監査を受けていることが必要です。監査報告書は申請時に一括して提出されます。従って、直前々期の期初には監査法人と準備を始めていなければなりません。また、監査法人は、内部統制制度(いわゆるJ-SOXへの対応を含む)や内部監査体制の整備など、適切な財務諸表が作成される体制構築のための助言を行う役割も果たします。

監査法人は、監査を引受けるに当たって、ショート・レビューと言われる予備調査を行います。通常、ショート・レビューは、2、3日で会社資料の閲覧やインタビューを行い、会社の事業内容、関係会社、特別利害関係者との取引、会計基準、財務諸表、社内規程、管理体制、内部監査体制などを確認し、上場するための課題を把握するとともに、それを基に監査法人として監査を引受けるか否かの判断を行います。

監査法人自体の数は近年増加しており、令和5年3月末時点で280法人が存在します。IPOの監査は、大手監査法人のEY新日本、トーマツ、あずさが、寡占する状況にありましたが、採算面からの大手監査法人の方針変更、人手不足や働き方改革などの影響、IPOを目指す会社の増加などから、2022年度の大手監査法人の割合は5割強まで低下しています。代わって、太陽や仰星といった準大手や中小監査法人が増加する傾向にあります。証券会社もかつては大手監査法人を推奨していましたが、「監査難民」といった言葉が象徴する、監査法人がIPOのボトルネックとなるといった状況も起こり、大手監査法人にこだわらない流れになっています。

監査法人を選ぶ際のポイントについて説明します。大手監査法人はIPOの豊富な経験・情報を持ち、グローバルな組織に属しており投資家から高い信頼を得ています。ただし、割高な監査報酬となりがちで、会社にあった柔軟な対応や助言が期待できない場合があります。証券会社と同様に、担当責任者(通常パートーナー)や担当者の経験や力量なども重要な判断材料となります。やはり、いくつかの監査法人の提案を受け、選択するのが一般的です。

3.株式事務代行会社
会社法は第123条に、株式会社は、株式名簿管理人を置く旨を定款で定め、当該事務を行うことを委託することができると定めています。上場するためには、株式事務が正確かつ円滑に行われるよう、株式事務代行機関の設置が義務付けられています。株式の事務代行会社は、名義書換など株主名簿の管理、配当金の支払い、株主総会招集通知発送などを行います。そのほか、株主総会開催のサポートや議決権行使の分析、ディスクロジャーなどについて助言やサポートを行います。

東京証券取引所は、株式事務代行機関して、三菱UFJ、三井住友、みずほなどの信託銀行、東京証券代行、日本証券代行、アイ・アールジャパンを承認しています。

4.証券印刷会社
証券印刷会社は、有価証券届出書や有価証券報告書、事業報告書、株主総会の招集通知などの作成支援や印刷を行っており、ほとんどの上場会社が利用しています。IPOに際して、上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)を始め、各種申請書類の作成の助言やサポート、印刷を行います。証券印刷会社は、各種法令や取引所規則などに精通し高い専門性や豊富な経験を有しており、上場申請会社の事務負担の軽減やIPO準備の効率化に、大きな役割を果たしています。また、ディスクロジャーを中心に様々な助言・サポートを行っています。
証券印刷会社は、プロネクサスと宝印刷がほぼ市場を独占しており、2社から選ぶことになります。