IPOをめざそう(その3)~IPOの関係者 [その2]

2023.10.2

企業支援

今回は、IPOの準備に必要な関係者の役割と選び方について説明します。IPOには様々な関係者が上場申請会社をサポートしていくことになりますが、必ず必要となる関係者には、証券会社、監査法人、株式事務代行会社があります。そのほか、証券印刷会社、ベンチャーキャピタル、IPOコンサルティング会社、弁護士・税理士・社会保険労務士などの専門家が、必要に応じ登場します。必須となる証券会社、監査法人、株式事務代行会社と、ほとんどの会社が利用している証券印刷会社について説明していきます。

1.証券会社
(1) 主幹事証券会社、幹事証券会社、引受証券会社
(2) 主幹事証券会社の役割(以上前号)
(3) コンフリクト
(4) 主幹事証券会社の選び方
2.監査法人
3.株式事務代行会社
4.証券印刷会社

1. 証券会社
(2)主幹事証券会社の役割
《前号からの続き》
最終段階で、上場申請会社が上場にふさわしいかどうか、上場申請会社の株式の引受けが可能かどうか、審査を行うのが引受審査部門です。引受審査部の審査は、半年程度の期間に渡り、上場申請会社から各種資料を受入れ、書面での質問、工場などへの実査、役員や担当者へのインタビュー、監査法人との面談などを通じて実施されます。引受審査部の指摘により、体制や書類の整備・修正を行うことも多く、取引所審査の事前準備的な役割を果たします。ただし、証券会社が引受け「可」と判断しても、取引所の審査が通らない場合もあります。証券会社は、上場時の株式の公募・売出しの際、株式を一旦引受けて投資家に販売します。売れ残るリスクを負うだけでなく、投資家に対し適切に情報を伝える責任があります。上場申請会社に粉飾決算や虚偽記載など大きな瑕疵があり、後日それが発覚し投資家が損害を被った場合、投資家から審査が不十分であったとして損害賠償請求を受ける可能性もあります。実際に損害賠償請求が認められた判例もあり、審査のスタンスは厳しくなっているといわれています。

(3)コンフリクト
証券会社は上場申請会社と上場という目標に対しての方向性は一致していますが、公開価格の決定という点ではコンフリクトが生じ得ます。上場申請会社は公開価格が高くなれば、公募増資によって会社に入ってくる資金は多くなり、既存の株主も売出しにより多くのおお金を手にすることにできます。一方、証券会社は、公開価格が高ければ引受けの際の手数料相当額(通常7~8%、証券会社の買取引受価格と公開価格の差額、スプレッド方式といわれる)も高くなるという点では利害が一致していますが、投資家に販売する間の市場変動リスクを抱え、高過ぎれば売れ残るリスクも大きくなります。また、公開後株価が下がれば、投資家に損失を与えることになります。そのため、公開価格を低く抑えようという方向に行きがちで、公開価格が低く抑えられ過ぎている、証券会社が優先的な地位を乱用しているのではないかと問題となりました。確かに、上場時の初値が公開価格の何倍にもなるというのでは、申請会社や売出しをした株主は納得できない部分があります。しかし、初値だけ吹き上がって、しばらくすると下がったままというケースもあります。公開価格より少し上で、上場時の初値が付きその後、会社の成長とともに上昇していくというのが理想ですが、絶対正しい株価など決められるものではありませんし、市場は上にも下にもオーバーシュートしがちです。個人投資家に多くの配分を行うという公開のしくみ自体を変えないと、なかなか解決できない問題かもしれません。

(4)主幹事証券会社の選び方
それでは、主幹事証券会社はどのように選んだら良いでしょうか。東京証券取引所は、主幹事証券会社が上場準備会社への指導や引受審査など重要な役割を担っていることから、主幹事証券会社としての充実した組織体制の構築を求めており、「主幹事候補証券会社リスト」をJPXホームページに記載しています(2023年4月1日現在、18社)。先述した通り証券会社に審査が事前審査的な役割を担っていることから、その経験や対応のノウハウが豊富な証券会社を選ぶのが賢明でしょう。実績でいえば、大手証券会社である、野村證券、大和証券、SMBC日興証券、みずほ証券、SBI証券あたりが無難な選択肢となります。販売力でも、大手各社にそれほど大きな違いは無いように見えます。アナリストの分析評価も踏まえバリュエーションをどう考えているか、どのような戦略で投資家に会社内容や成長性をアピールしていこうと考えているかという点も重要な判断材料となります。営業部門の担当者の熱意、担当者との相性、公開引受部門担当者の経験やノウハウも判断の要素になるでしょう。上場後、証券市場を利用し、更なる企業の拡大を考えているのであれば、上場後のフォロー体制も考える必要があります。ただ、時価総額が大きく期待できない場合やまだ上場の体制構築に大きな手間がかかりそうで、ハードルが高いと思われる場合は、大手証券会社では他の上場申請会社に比べ対応が劣後する可能性もあり得ます、その場合はあえて中堅クラスとコンタクトするという考え方もあるかもしれません。2、3社の候補証券会社から、IPOの体制や上場申請会社をどう見ているか(バリュエーションを含む)などについて提案を受けて、選ぶのが通常です。