不正競争防止法等の改正(知財一括法)(完)

2023.10.9

法的支援

知的財産分野におけるデジタル化・国際化の進展を踏まえ、時代の要請に対応した知的財産制度を見直すため、(1)デジタル化に伴う事業活動の多様化を踏まえたブランド・デザイン等の保護強化、(2)コロナ禍・デジタル化に対応した知的財産手続等の整備、(3)国際的な事業展開に関する制度整備を柱として、不正競争防止法、商標法、意匠法、特許法、実用新案法、工業所有権に関する手続等の特例に関する法律(「工業所有権特例法」)が改正されました。(なお、以下の条文は参考であり網羅されている訳ではありません。)


1.デジタル化に伴う事業活動の多様化を踏まえたブランド・デザイン等の保護強化
(1)登録可能な商標の拡充
(2)意匠登録手続の要件緩和
(3)デジタル空間における模造行為の防止
(4)営業秘密・限定提供データの保護の強化
2.コロナ禍・デジタル化に対応した知的財産手続等の整備
(1)送達制度の見直し
(2)書面手続のデジタル化等のための見直し(以上前号まで)
(3)手数料減免制度の見直し
3.国際的な事業展開に関する制度整備
(1)外国公務員贈賄に対する罰則の強化・拡充
(2)国際的な営業秘密侵害事案における手続の明確化

2.コロナ禍・デジタル化に対応した知的財産手続等の整備
(3)手数料減免制度の見直し(特許法195条の2等)
高い潜在能力を有するが資金・人材面の制約で十全な知財活動を実施できない者による発明を奨励する等の目的のため、中小企業等に対して審査請求料の減免制度が設けられています(件数制限なし)。具体的には、資力制約、研究開発等能力、新産業創出の程度を勘案し軽減率を設定しています。しかしながら、この資力等の制約がある者の発明奨励等という制度趣旨にそぐわない形での制度利用が見られる実態を踏まえ、一部件数制限を設ける旨の改正を行われました。但し、上限件数及びその対象は、意欲ある中小企業・スタートアップ等によるイノベーション創出等を阻害しないよう最大限配慮の上、政省令で定めることされています。

3.国際的な事業展開に関する制度整備
(1)外国公務員贈賄に対する罰則の強化・拡充(不正競争防止法21条4項、5項、22条1項)
OECD 外国公務員贈賄防止条約に基づく外国公務員贈賄罪について、OECDからの勧告も踏まえ、条約をより高い水準で的確に実施するため、国内のバランスも踏まえつつ他の加盟国と遜色のない水準となるよう、自然人・法人の法定刑(罰金・懲役)が引上げられました(自然人:500万円以下又は5年以下⇒3000万円以下又は10年以下、法人:3億円以下⇒10億円以下)。
また、現行法上、日本企業従業員の贈賄行為は、日本国内での行為は国籍問わず(属地主義)、海外での行為は日本人のみを処罰対象とし(属人主義)、外国人従業員による単独行為は対象外としています。そこで、海外での贈賄行為を従業員の国籍 を問わず処罰可能とし、結果として外国人従業員が所属する日本企業も両罰規定により処罰できることが明確化されました。

(2)国際的な営業秘密侵害事案における手続の明確化(不正競争防止法19条の2、19条の3)
日本国内で事業を行う企業の営業秘密が侵害された場合、刑事(懲役・罰金)では海外での侵害行為も処罰可能です(国外犯処罰)。一方、民事(差止・損害賠償)では、日本国内の裁判所で日本の法律(不競法)に基づき裁判を受けられるのか、事案によっては不明確です(*)。このため、日本国内で事業を行う企業の、日本国内で管理体制を敷いて管理している営業秘密に関する民事訴訟であれば、海外での侵害行為も日本の裁判所で日本の不競法に基づき提訴できることが明確化されました(中小企業も、日本の裁判所で日本語で海外企業を提訴可能であることが明確化されました。)。但し、「専ら海外事業にのみ用いられる営業秘密」の場合は、従来と同様に、「民事訴訟法」「法の適用に関する通則法」に基づき裁判所が判断します。
(*)裁判管轄は「民事訴訟法」、準拠法は「法の適用に関する通則法」に基づき裁判所が判断されますが、判断によっては、裁判管轄・準拠法が日本・日本法ではない可能性もあります。