不正競争防止法等の改正(知財一括法)(その5)

2023.09.25

法的支援

知的財産分野におけるデジタル化・国際化の進展を踏まえ、時代の要請に対応した知的財産制度を見直すため、(1)デジタル化に伴う事業活動の多様化を踏まえたブランド・デザイン等の保護強化、(2)コロナ禍・デジタル化に対応した知的財産手続等の整備、(3)国際的な事業展開に関する制度整備を柱として、不正競争防止法、商標法、意匠法、特許法、実用新案法、工業所有権に関する手続等の特例に関する法律(「工業所有権特例法」)が改正されました。(なお、以下の条文は参考であり網羅されている訳ではありません。)


1.デジタル化に伴う事業活動の多様化を踏まえたブランド・デザイン等の保護強化
(1)登録可能な商標の拡充
(2)意匠登録手続の要件緩和
(3)デジタル空間における模造行為の防止
(4)営業秘密・限定提供データの保護の強化
2.コロナ禍・デジタル化に対応した知的財産手続等の整備
(1)送達制度の見直し(以上前号まで)
(2)書面手続のデジタル化等のための見直し
(3)手数料減免制度の見直し
3.国際的な事業展開に関する制度整備
(1)外国公務員贈賄に対する罰則の強化・拡充
(2)国際的な営業秘密侵害事案における手続の明確化

2.コロナ禍・デジタル化に対応した知的財産手続等の整備
(2)書面手続のデジタル化等のための見直し
①書面手続のデジタル化(申請)のための改正(工業所有権特例法8条)
特許庁に対する申請手続及び特許庁からの発送手続は、多くはオンラインで可能ですが、一部オンラインで行うことができないものが存在します。特許庁では『特許庁における手続のデジタル化推進計画(令和3年3月31日)』において、原則全ての申請手続をオンライン可能にする計画を立てているところ、特許財政の制約の中で計画を実現するため、これまでのオンライン申請の形態(XML形式)ではなく、別の電子形態(具体的にはPDF形式を想定)で受け付ける必要があり、この別形態の申請を受け付けるため、所要の規定が設けられました。これにより、年間約20万件のオンライン申請できない手続がオンライン申請可能となり、ユーザー利便性向上につながることが期待されます。
②e-Filingによる商標の国際登録出願の手数料納付方法の見直し(商標法68条の2)
我が国の出願人が、日本国特許庁を本国官庁として、商標登録を各国で受けようとする場合の制度(マドリッド協定 議定書に基づく商標の国際登録制度※1)を利用して、国際事務局(WIPO:世界知的所有権機関)に商標の 国際登録出願をする場合、日本国特許庁に本国官庁手数料(日本円)を、WIPOに基本手数料等※2(スイス フラン)をそれぞれ納付しなければならず、その手続が負担となっています。令和4年6月より、特許庁は、マドリッド協定議定書に基づく国際登録出願について、書面手続に加え、 WIPOが 提供するマドリッドe-Filing(WIPOの出願システム:以下「e-Filing」)を利用した電子出願の受付を開始しました。このe-Filingは本国官庁手数料とWIPOに納付すべき手数料を一括してWIPOに納付する機能を備えているため、出願人の利便性向上のため、国際登録出願をe-Filingで行う場合には、本国官庁手数料を他の手数料と一括で WIPOにスイスフランで納付できるよう、商標法の改正が行われました。
③優先権証明書のオンライン提出のための規定整備(特許法43条、実用新案法10条8項、意匠法10条の2第3項、商標法10条3項、13条等)
同一の発明を複数国に同時出願するためには、同時期に翻訳等の準備や国ごとに異なる出願手続への対応が必要となり、出願人の負担が大きいことから、負担軽減のため、最初の出願国(第一国)への出願日 を基準に、他国(第二国)で登録要件の審査を受けられる、パリ条約による優先権制度があります。日本特許庁への出願の際に、優先権制度を利用するためには、出願人は、優先期間内に第一国で発行さ れた優先権証明書の原本を、書面により提出することを原則としています。このため、例えば、優先権証明書をオンラインで提出することや、原本の写しを提出することはできません。 そこで、出願人の利便性向上及びデジタル化の促進のため、優先権証明書のオンライン提出を可能とするとともに、 その写しの提出を許容する旨の改正を行われました。