不正競争防止法等の改正(知財一括法)(その3)

2023.08.21

法的支援

知的財産分野におけるデジタル化・国際化の進展を踏まえ、時代の要請に対応した知的財産制度を見直すため、(1)デジタル化に伴う事業活動の多様化を踏まえたブランド・デザイン等の保護強化、(2)コロナ禍・デジタル化に対応した知的財産手続等の整備、(3)国際的な事業展開に関する制度整備を柱として、不正競争防止法、商標法、意匠法、特許法、実用新案法、工業所有権に関する手続等の特例に関する法律(「工業所有権特例法」)が改正されました。(なお、以下の条文は参考であり網羅されている訳ではありません。)

1.デジタル化に伴う事業活動の多様化を踏まえたブランド・デザイン等の保護強化
(1)登録可能な商標の拡充
(2)意匠登録手続の要件緩和
(3)デジタル空間における模造行為の防止(以上前号まで)
(4)営業秘密・限定提供データの保護の強化
2.コロナ禍・デジタル化に対応した知的財産手続等の整備
(1)送達制度の見直し
(2)書面手続のデジタル化等のための見直し
(3)手数料減免制度の見直し
3.国際的な事業展開に関する制度整備
(1)外国公務員贈賄に対する罰則の強化・拡充
(2)国際的な営業秘密侵害事案における手続の明確化

1.デジタル化に伴う事業活動の多様化を踏まえたブランド・デザイン等の保護強化
(4)営業秘密・限定提供データの保護の強化
①限定提供データの定義の明確化(不正競争防止法2条7号)
不正競争保護法によりビッグデータ保護制度(*)が創設(地図データ、消費動向データ等。令和元年7月施行)されましたが、「秘密管理されていないビッグデータ」のみが保護対象とされています。近年、自社で秘密管理しているビッグデータであっても他者に提供する企業実務があることから、対象を「秘密管理されたビッグデータ」にも拡充し、営業秘密と一体的な情報管理が可能となりました。
(*)限定提供データ制度:ビッグデータを安心して他者と共有・利活用できるように、不正取得等に差止など対抗手段を設ける保護制度
②損害賠償額算定規定の拡充(不正競争防止法5条)
営業秘密等の損害額(逸失利益)は、侵害行為と損害との因果関係が明らかでない場合が多く立証が困難なため、損害額を原則「侵害品の販売数量×被侵害者(営業秘密保有者)の1個当たりの利益」と推定して算定することで立証負担を軽減しています(損害賠償算定規定)が、被侵害者の生産・販売能力超過分の損害額は認められませんでした。適切な損害回復を図るため、超過分は侵害者に使用許諾(ライセンス)したとみなし、 使用許諾料相当額として損害賠償額を増額できることになりました。これにより、生産能力等が限られる中小企業も、能力超過分はライセンス料相当額として増額することが可能になりました。また、現行法では「物を譲渡」する場合に限定されていた対象を、デジタル化に伴うビジネス多様化を踏まえ、 「データや役務を提供」する場合にも拡充されました。
③使用等の推定規定の拡充(不正競争防止法5条の2)
原告(営業秘密保持者)から不正取得した「営業秘密(生産方法等)」を被告(侵害者)が実際に使用しているかを原告が立証することは困難なため、被告が「営業秘密」を不正取得し且つ「その営業秘密」を使用すれば生産できる製品を生産している場合には、被告が「その営業秘密」を使用したと推定する規定が設けられていますが、推定規定の適用対象となる被告は産業スパイ等の悪質性の高い者(営業秘密へのアクセス権限がない者・不正に取得した者からその不正な経緯を知った上で転得した者)に限定されています。改正負では、オープンイノベーションや雇用の流動化を踏まえ、推定規定の適用対象を、元々アクセス権限のある者(元従 業員)や不正な経緯を知らずに転得したがその経緯を事後的に知った者にも同様に悪質性が高いと認められる場合に限り拡充しました。
④裁定における営業秘密を含む書類の閲覧制限(特許法186条1項3号、実用新案法55条、意匠法63条1項4号)(2023年7月3日施行)
裁定制度は、ある特許発明等について、第三者からの裁定請求に対して、経済産業大臣又は特許庁長官により、権利者の同意なく、第三者にその特許発明等の通常実施権を設定することができる制度です。現行法では裁定関係書類は閲覧制限の対象外であり何人も裁定関係書類の閲覧が可能であるため、裁定判断に関わる営業秘密の重要証拠の提出を当事者が控えることにより、妥当な裁定判断が阻害される可能性があります。このため、裁定における営業秘密を含む書類の閲覧制限が可能となりました。