綜合商社での仕事(完)

2023.07.31

企業支援

総合商社といえば、大きな仕事が出来る、国内に留まらずグローバルに働くことができる、高収入である、というイメージから、常に人気の業界であり、昨今の学生就職人気ランキングでも大手が上位をしめています。
今回は総合商社での仕事について、少しお話したいと思います。

1. 商社マンはプロデューサーでありオーガナイザーである
2. 業務の質は多種多様、でも専門性も要求される
3. 業務の量は、ただただ膨大である(以上前号まで)
4. 人間力が勝負である

4. 人間力が勝負である
足りないピースをみつけてきて商いの成立に奔走する、専門性を極めるべく努力・精進し社内の協力も得る、関係者のそれぞれの利害を正しく理解し調整する、内外を問わずコミュニケーション能力を発揮する、膨大な業務をこなす体力を身に着ける、これら心・技・体を兼ね備えていくと、社内外の人が相談にやってくる、仕事が集まってくる、結果を出す、評判が上がりまた社内外の人が相談にやってくる、という勝ちのループにはまります。どのユニットもそんな人を探して、育てて、またトップに仰ぐのです。

商社は部署の分離・統合を頻繁に行います。表では時代時代の動きに敏感かつ柔軟に対応と説明される事が多いですが、裏側にはユニットの長に誰が着くかが重要で、そのために組織と人事を動かす事が多いです。組織改編と人事がはまれば、攻めに転じた商社は同業との競争にも打ち勝つことができます。商社のビジネスはトップから下位まで、その人間力に大きく依存しているといってよいと思います。

総じて人間力の勝負でしょう。そんな人間力を体現できれば商社では勝ちです。
本稿を読んで、よし商社で勝ち組を目指そう!と思われたら、ぜひ頑張って頂きたい。
また、商社には属していないが商社的なビジネス取組も面白そうだ、と思ったなら、異業種など気にせず実践をトライされ人間力の取得を目指されるなら、それも面白いと思います。


最後に筆者の入社3年目のエピソードを紹介します。

中東の王国ヨルダンの南北を結ぶ全長300㎞超のマイクロ通信幹線プロジェクトを大手通信メーカーと組んで受注しました。 主担当として、入札前現地調査、入札書類作成(数か月間100時間超/月の残業で作成しました~今では考えられない)、現地に出向いて応札、結果、欧米の競合をはねのけて見事受注内定にこぎつけました。発注元であるヨルダン国通信公社との契約条件の細部交渉は首都アンマンで実施、日本側からはメーカーの技術部長、営業担当と私の3名で臨みました。交渉は3週間に及び、いよいよ契約調印まで秒読み、契約調印をお願いする管掌役員と同行する課長に出張を打診しようとしていた矢先、思いがけない問題が発生しました。同マイクロ幹線はヨルダン最南端のアカバ湾が終点でしたが、アカバ湾そば500mの丘陵山頂にリフレクター(反射板)を設け、国境を越えサウジアラビアの幹線と繋ぎこむという近い将来の計画が通信公社副総裁より披露され、これをオプションながら契約に盛り込みたいという提案が出たのです。
同丘陵は舗装道路もないただの丘陵でリフレクターの輸送・据付の可否が争点となりました。我々からはヨルダン国軍保有の輸送ヘリを使用し機材と人員の輸送をすること、ヘリの使用許可は公社側で取得することを条件としオプションを受ける、と回答しましたが、通信公社側は国軍への働きかけを約束することは出来ない、輸送は日本側で責任もって用意せよと譲らず。交渉は進まなくなり、副総裁は「ロバを使え!ロバなら山頂まで行けるだろ!」と叫び机をドンとたたき我々日本側を残して会議室から出て行ってしまいました。 日本側はしばし放心状態でしたが、ここまで来たら何としても契約調印まで至らねばとの思いに覚醒し、メーカー担当者は国際電話し、かのリフレクターは分解できるか、最小ユニットの大きさと重さはいくらかと(日本側の失笑、途中から叱責を受けるも)調査を依頼、私はアンマン駐在事務所の現地社員を通じてアカバ湾近くでロバの大量調達は可能か、ロバは山頂までたどりつけるのか、ロバが運べる最大重量は何キロか、など奇想天外なことを極めて真面目に調べ始めました。緊張感・高騰感と脱力感が混在する不思議な一時間がたったころ、副総裁がアイスクリームを持って会議室に戻ってきて「アイスを食べてお互い頭を冷やそう。そして交渉を再開しよう。」と。オプション部分はその仕様と価格は明示するも「実施が決まった時点で国軍のヘリの使用を前提にお互い協議し最善の方策をとる。」と記載する事で交渉成立、契約条件を無事に終えることが出来たのでした。数日後、役員と課長の出張を迎え入れ契約調印も無事に終え、調印後の簡単なパーティーで副総裁より「こいつは良く仕事をする」とのお褒めの言葉も頂きました。役員には「ありがとうございます。でも未だ未だです。」と軽くいなされましたが。

(了)