海外で仕事をする際の心得(その1)

2022.06.10

企業支援

前回、インドネシアについて寄稿した際に、海外で働く、事業を海外に展開したいと思う方々に向け「海外のどこの国や地域においても独自の文化や国民性があり、それを理解する事が出発点になる」とお伝えしました。
今回は「海外で仕事をする際の心得」についてお話ししたいと思います。

筆者は職歴から海外出張をする機会が多く、滞在した国の数は20を超えます。内訳は、米国、英国、仏国、そして東アジア・東南アジア・中近東・アフリカ(英語圏)の国々です。
そんな経験を経ての「心得」になりますから、世間一般のものより若干かたよっているかもしれませんが、筆者はこれを信じ、先進国を除く地域に赴任する同僚・後輩に伝えてきました。ここでご紹介したいと思います。

1.その国を良く知る。
2.日本人で群れて良い。(以上本号)
3.緊張感を持続してもつ。
4.受け容れる。でも、こだわる。
5.早いうちから日本側に理解者・協力者をつくっておく。
6.現地にブレーンをつくる。

1. その国を良く知る。
・インドネシアについて寄稿した際にも述べましたが、その国の地理・歴史(特に独立前後の時期)・文化などを事前に知っておくことです。現在はウィキペディアで大抵のことは分かりますが、新書などもチェックしておくと良いでしょう。ウィグル自治区、香港、ミャンマー/ロヒンギャ、ウクライナ、ロシア等、昨今の紛争地域を扱った新書は本屋やアマゾン/書籍などで目立った所に並んでいますが、紛争地域でない国々/特に話題にのぼらない国々の書籍も探せば必ず有ります。

・知識・情報として持っていたことが、現地で生活していて「あ、なるほど」と腑におちる時がやってきます。その機会にウィキペディアや参考にした書籍を再度のぞいてみましょう。その国・その国民への理解がぐっと深まります。

2. 日本人で群れて良い。
・どの都市、地域にも、安全快適に暮らしていくためにやるべきこと、やってはならないこと、行くべき場所、避けた方が良い場所、注意すべきこと、など多くの項目が有ります。これは現地入りしたら早々に知っておいた方が良いです。まず日本人の群れに加わり、新参者として教えを乞うことです。日本人の群れには、在外公館含め政府関係者、大手企業、中小企業など様々な業種・業態の出身者がいます。安全快適な暮らしのためのノウハウを山ほど持っているはずです。

・日本人の群れの大半は、現在のあなたには全く接点の無い会社の出身者でしょう。それゆえ仕事の面でもあなたとは違った視点での情報・意見をもっており、その中にはあなたに有用なものも必ず含まれています。今は接点がなくとも、将来何らかの関係性が出来るかもしれません。もっと単純に、気が合えば長く続く友人になるかもしれません。

・群れの中では、先方から見れば、あなたはその手掛ける事業分野を最もよく知っている人、あるいはそんな人たちの一人になります。向こうがあなたを有用だと判断してくれれば交わす情報の質は高まり、量は増えるでしょう。日本に居るときには決して会えない人を紹介してくれることもあります。IT系など新興企業は初動でトップ自ら海外拠点を訪問することが多いので、人脈が思った以上に広がることもあります。

・日本人が少ない地域は、在外公館、JETROなどの公的機関で伝手を探しましょう。それなりの数の日本人が滞在する地域では、日本人向け新聞・雑誌や、出身大学、出身都道府県、業種特化の集まり(ロジスティックス業界、金融・保険業界とか、IT・メディア・ネット広告業界とか)もあるでしょう。群れる方法は探せばちゃんと見つかります。

[Small Story]
2012~14年頃、日本の大手外食チェーンやサービス業のジャカルタ進出がブームになり、丸亀製麺、Coco壱番屋、一風堂などが相次いで開業しました。私も日本大手つけ麺チェーンのジャカルタ進出検討をお手伝いする機会があり、それを皮切りに進出支援が広がり始め、レストランチェーン、エステ・脱毛チェーン、と続き、歯科クリニック(!) が登場しました。出張して来られた歯科医の先生いわく、「歯科医というのはどの国でも嫌われており誰もわざわざ行きたいとは思わない。人が集まるショッピング・モールやファッション・ビルで、3階以上の上層階やフロアの奥まった場所は家賃が安くても避けるべきで、割高でも入口から近いエスカレーターを1階上ったすぐ、あるいは1階降りたすぐの場所がベスト。この仮説をジャカルタでも検証したい。」とのこと。という訳で一緒に走り回ったのですが、ものの見事というか、どこに行ってもエスカレーターを一階下りてすぐの場所に既に歯科クリニックがあるんです。目ぼしい場所に占有者がいて家賃も高かったので、先生は最終的に進出を断念されたのですが、面白い経験でした。