相続法改正(その3)

2021.08.2

法的支援

今回は、以下のポイントについて解説します。

2 遺産分割に関する見直し等(2019年7月1日施行)
⑴ 配偶者保護のための方策(持戻し免除の意思表示の推定規定)
婚姻期間が20年以上である夫婦の一方配偶者が,他方配偶者に対し,その居住用建物又はその敷地(居住用不動産)を遺贈又は贈与した場合については,民法第903条第3項の持戻しの免除の意思表示があったものと推定し,遺産分割においては,原則として当該居住用不動産の持戻し計算は不要となります(当該居住用不動産の価額を特別受益として扱わずに計算をすることができます。)。
配偶者に遺贈等した居住用不動産が特別受益(遺産の先渡し)と取り扱われると、計算上相続財産に含まれるため配偶者が最終的に受け取る財産額は遺贈等がなかった場合と変わらなくなり、遺贈等の趣旨が反映されません。このような不都合を解消するため、配偶者に遺贈等した居住用不動産については被相続人による持戻しの免除の意思表示があったものと推認される(計算上相続財産に含まれない)ことになりました。

⑵ 遺産分割前の払戻し制度の創設等
・各共同相続人は,遺産に属する預貯金債権のうち,各口座ごとに以下の計算式で求められる額(ただし,同一の金融機関に対する権利行使は,法務省令で定める額(150万円)を限度とします。)までについては,他の共同相続人の同意がなくても単独で払戻しをすることができます。
単独で払戻しをすることができる額=(相続開始時の預貯金債権の額)×(3分の1)×(当該払戻しを求める共同相続人の法定相続分)
・預貯金債権の仮分割の仮処分については,家事事件手続法第200条第2項の要件(事件の関係人の急迫の危険の防止の必要があること)が緩和され,家庭裁判所は,遺産の分割の審判又は調停の申立てがあった場合において,相続財産に属する債務の弁済,相続人の生活費の支弁その他の事情により遺産に属する預貯金債権を行使する必要があると認めるときは,他の共同相続人の利益を害しない限り,申立てにより,遺産に属する特定の預貯金債権の全部又は一部を仮に取得させることができるようになりました。   
共同相続人は遺産分割が終了するまでの間は単独で相続対象の預貯金を払い戻すことができない(最判平成28年12月19日)ため、生活費・葬儀費用の支払や相続債務の弁済等の資金需要に対応できません。このような不都合を解消するため、遺産分割終了前であっても、共同相続人は預貯金債権の一定割合については単独で払い戻しを受けられるようになり、また、他の共同相続人の利益を害しない限り家庭裁判所の判断による仮払い(保全処分)を受けられるようになりました。

⑶ 遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合の遺産の範囲
・遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても,共同相続人全員の同意により,当該処分された財産を遺産分割の対象に含めることができます。
・共同相続人の一人又は数人が遺産の分割前に遺産に属する財産の処分をした場合には,当該処分をした共同相続人については,アの同意を得ることを要しません。
遺産分割前に共同相続人の一人が遺産に属する財産を処分した場合、当該財産が遺産分割対象でなくなるため、共同相続人間で不公平が生じます。他の共同相続人全員の同意があれば、処分された財産を遺産分割の対象とすることにより、当該処分がなかったのと同じ結果を実現でき、このような不公平はなくなります。