経営者が知っておくべき債権法改正(その4)

2021.07.26

法的支援

今回は、以下のポイントについて解説します。

8 瑕疵担保責任(契約不適合責任)
9 責任財産保全制度
10 連帯債務
11 債務引受(新設)

8 瑕疵担保責任(契約不適合責任)
①売買の特定物に瑕疵(かし)がある場合の規律が大幅に改正され、特定物か不特定物かを問わず、目的物の種類、品質等に関して契約の内容に適合しない場合は、買主は、売主に対し、(1)修補・代替物引渡・不足分引渡による履行の追完の請求、(2)損害賠償請求(売主の責めに帰すことができない事由による場合を除く)、(3)契約の解除及び(4)代金減額請求ができることになりました。但し、契約不適合が買主の責めに帰すべき事由による場合はこの限りではありません。
②従前は瑕疵担保責任の追及は買主が瑕疵を知ってから1年以内に権利行使することが必要でしたが、買主は種類又は品質に関する契約不適合を知ってから1年以内にその旨を売主に通知すればよく権利行使はその後でもよいことになりました。但し、売主が引渡時において契約不適合について悪意重過失である場合はこの限りではありません。

9 責任財産保全制度
①債権者代位権(債権者が自己の債権を保全する必要がある場合に債務者に属する権利(「被代位権利」)を行使する権利)について、(1)被代位権利が金銭債権・動産引渡を目的とする場合、債権者は相手方に対し自己への支払・引渡を求めることができること、(2)債権者が被代位権利を行使した後も、債務者は被代位権利を処分(取立等)でき、相手方も被代位権利について債務者に対して履行できること、(3)債権者が訴えをもって被代位権利を行使する場合、遅滞なく債務者に対し訴訟告知(訴訟提起されたことの利害関係ある第三者に対する告知)をしなければならないことが明文化されました。
②詐害行為取消権(債務者が債権者を害することを知ってした行為の取消等を債権者が裁判所に請求できる権利)について、(1)債権者は、債務者の行使の取消とともに受益者・転得者に対する逸出財産の返還(返還が困難な場合は価額の償還)を請求できること、(2)(1)の場合に受益者・転得者に対する返還請求が金銭支払・動産引渡(価額償還を含む)を求めるものであるときは、債権者は受益者・転得者に対し自己への支払・引渡を求めることができること、(3)詐害行為取消訴訟においては、受益者・転得者を被告とし債務者に訴訟告知しなければならないこと、(4)詐害行為取消権の要件を破産法の否認権等の類似制度と整合するものとすること(相当対価による処分、担保供与、債務消滅行為)が明文化されました。

10 連帯債務
連帯債務者の一人についての履行請求、免除、消滅時効完成は、別段の合意のない限り、他の連帯債務者について効力を生じない(相対効)ことになりました。これにより、履行請求を受けない連帯債務者が知らないうちに履行遅滞に陥る、連帯債務者の一部についてのみ免除したいという債権者の意思に反する、全ての連帯債務者について消滅時効完成阻止の措置を執らなければならないといった不都合が解消されます。更改・相殺・混同についての絶対効(他の連帯債務者にも効力が生じる)は従前の通りです。連帯保証人に生じた事由の主債務者に対する効力についても、同様の改正がされました。

11 債務引受(新設)
①併存的債務引受(債務者と引受人が連帯して債務を負担)については、債権者と引受人との契約によってすることができますが、債務者と引受人との契約によることもできます(債権者の承諾時に効力発生)。
②免責的債務引受(引受人のみが債務を負担)については、債権者と引受人との契約によってすることができます(債権者から債務者への通知時に効力発生)が、債務者と引受人とで契約し債権者が承諾することによってもすることができます。免責的債務引受の場合、引受人は債務者に対して求償権を取得せず、債権者は債務者の承諾なく担保権・保証を引受人が負担する債務に移すことができます(但し、引受人以外の者が設定した担保権・保証については承諾(保証については書面による承諾)が必要)。