家庭の法律基礎知識(相続編)(その2)

2023.01.30

法的支援

ビジネスの世界だけでなく家庭内でも、法律に従った対応が必要な場合があります。そこで、このシリーズでは、家庭内のもめごとに対応する上で知っておいていただきたい法律の基礎知識を概説します。本編は相続に関するものです。

1.相続人
2.相続の単純承認・限定承認・放棄
3.相続分(以上前号)
4.遺産分割
5.共同相続における権利承継の対抗要件
6.遺言(以上本号)
7.配偶者の居住権
8.遺留分
9.特別寄与料

4.遺産分割
共同相続人は、遺言により遺産分割が禁じられた場合(禁止期間は相続開始から5年以内)又は共同相続人間の契約により分割を禁止した遺産(禁止期間は5年以内で相続開始から10年以内)を除き、遺産の分割を協議します。遺産分割前に処分された遺産は、共同相続人(処分した共同相続人を除く。)全員の同意により、処分された遺産が分割時に存在したものとみなすことができます(907条、908条)。
遺産分割協議が整わない場合は、家庭裁判所に分割を請求できます。家庭裁判所では、遺産分割調停をまず行い、調停不調の場合は裁判所の職権により遺産分割審判が行われます。遺産分割審判では法定相続分をベースに判断される可能性が高いため、遺産分割調停の申立を行うかどうかは慎重に検討する必要があります。
遺産分割前であっても、預貯金債権については、その3分の1について法定相続分に応じた額(上限は150万円)を単独で引き出すことが可能です(909条の2)。

5.共同相続における権利承継の対抗要件
特定財産承継遺言等により承継された財産については,登記等の対抗要件なくして第三者に対抗することができるとされている現行法の規律が見直され,法定相続分を超える部分の承継については,登記等の対抗要件を備えなければ第三者に対抗することができないことになりました。特定の財産を相続させる旨の遺言による権利の承継は登記なくして第三者に対抗できるというのが判例でしたが、遺言の有無内容を知り得ない相続債権者・債務者等や取引の安全を害するおそれがあるため、遺産分割や遺贈の場合と同様に、法定相続分を超える部分については、登記・登録その他の対抗要件を具備しなければ第三者に対抗できないことになりました。法定相続分を超えて相続により債権を承継した共同相続人が当該債権に係る遺言の内容(遺産分割の場合は当該債権に係る遺産分割の内容)を明らかにして債務者に承継を通知した場合は、共同相続人全員が債務者に通知したものとみなして対抗要件具備が判断されます(899条の2)。

6.遺言
15歳以上であれば遺言を作成出来ますが、方式が決められているのでそれを遵守する必要があります。死亡の危急が迫った場合等の特別の方式を除くと、自筆証書遺言、公正証書遺言又は秘密証書遺言のいずれかの方法による必要があります。公正証書遺言及び自筆証書遺言保管制度を利用した自筆証書遺言を除き、相続開始後に家庭裁判所の検認手続(相続人に対し遺言の存在及びその内容を知らせるとともに,遺言書の形状,加除訂正の状態,日付,署名など検認の日現在における遺言書の内容を明確にして,遺言書の偽造・変造を防止するための手続き)を受ける必要があります。
(1)自筆証書遺言
遺言者が全文、日付及び署名を自書して押印します。財産目録については自書でなくてもいいですが全頁に署名押印する必要があります(968条)。
自筆証書遺言は比較的容易に作成できますが、紛失・隠蔽や改ざんのリスクがありますが、自筆証書遺言保管制度(法務局が自筆証書遺言書を預かる制度)を利用すれば,法務局において遺言書の原本は遺言者死亡後50年間その画像データは遺言者死亡後150年間保存・保管されることになりますので、遺言書の紛失・亡失のおそれがないほか、相続人等の利害関係者による遺言書の偽造・変造・隠匿・毀棄の危険を防止することはできます。自筆証書遺言の保管申請は、遺言者が遺言者の住所地を管轄する遺言書保管所、遺言者の本籍地を管轄する遺言書保管所又は遺言者が所有する不動産の所在地を管轄する遺言書保管所のいずれかに対して行います。相続人等は、「遺言書保管事実証明書」の交付請求を行うことができ、請求者が遺言者の相続人である場合は遺言者の遺言書が遺言書保管所に保管されているかどうか、請求者が遺言者の相続人でない場合は請求者を受遺者等・遺言執行者等とする遺言書が遺言書保管所に保管されているかどうかの確認をすることができます。なお、遺言書保管事実証明書の交付請求は、全国いずれの遺言書保管所でも手続可能で郵送によっても手続きができます。また,相続人等は、「遺言書情報証明書」の交付請求を行うことができ、当該証明書には,遺言書の画像情報が全て印刷されており、遺言書の内容を確認することができます。相続人等の誰かが遺言書情報証明書の交付を受けると、遺言書保管官からその者以外の全ての相続人等に対し関係する遺言書を保管している旨が通知されます。なお、遺言書保管所に保管された遺言書の原本は、遺言者自身からの撤回を除き、相続人であっても返還されることはありませんので、遺言書の原本の代わりとして遺言書情報証明書を各種手続に使用することになります。遺言書情報証明書の交付請求も、全国いずれの遺言書保管所でも手続可能で郵送によっても手続きができます。相続人等は、遺言書の閲覧(モニター/原本)の請求を行うこともできます。<https://www.moj.go.jp/MINJI/01.html>
(2)公正証書遺言
証人2人以上が立会の上、公証人役場で作成します。遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授する→公証人が遺言者の口授を筆記しこれを遺言者及び証人に読み聞かせ又は閲覧させる→遺言者及び証人が筆記の正確さを承認して各自署名押印する→公証人が方式に従った旨を付記して署名押印する、という流れになります(969条)。
(3)秘密証書遺言
遺言者が予め秘密証書に署名押印した上証書を封じて秘密証書に用いた印章で封印し、公証人役場で作成します。遺言者が公証人及び証人2人以上の前に封書を提出して自己の遺言である旨及び筆者の氏名住所を申述する→公証人が証書提出日及び遺言者の申述を封紙に記載する→公証人、遺言者及び証人が封紙に署名押印する、という流れになります(970条)。遺言内容を秘匿したい場合や遺言本文を自書でなくタイプしたい場合に適していますが、遺言書自体は遺言者が保管する必要があります。