家庭の法律基礎知識(相続編)(完)

2023.02.27

法的支援

ビジネスの世界だけでなく家庭内でも、法律に従った対応が必要な場合があります。そこで、このシリーズでは、家庭内のもめごとに対応する上で知っておいていただきたい法律の基礎知識を概説します。本編は相続に関するものです。

1.相続人
2.相続の単純承認・限定承認・放棄
3.相続分
4.遺産分割
5.共同相続における権利承継の対抗要件
6.遺言(以上前号まで)
7.配偶者の居住権
8.遺留分
9.特別寄与料

7.配偶者の居住権
⑴ 配偶者短期居住権(1037条)
・配偶者は,相続開始の時に被相続人所有の建物に無償で居住していた場合には,遺産分割によりその建物の帰属が確定するまでの間又は相続開始の時から6か月を経過する日のいずれか遅い日までの間,引き続き無償でその建物を使用することができます。
・配偶者は,相続開始の時に被相続人所有の建物に無償で居住していた場合には,居住建物の所有権を取得した者は,いつでも配偶者に対し配偶者短期居住権の消滅の申入れをすることができますが,配偶者はその申入れを受けた日から6か月を経過するまでの間,引き続き無償でその建物を使用することができます。
原則として被相続人と配偶者との間で使用賃貸借契約が成立していたと推認される(最判平成8年12月17日)という手法では、第三者に居住建物が遺贈された場合や被相続人が反対の意思表示をした場合には配偶者の居住を保護できませんが、配偶者短期居住権は、このような場合であっても、配偶者の居住権を保護できます。配偶者は、第三者に居住建物を使用させるためには居住建物の所有権を取得した者の承諾を得る必要があります。
⑵ 配偶者居住権(1028条)
配偶者が相続開始時に居住していた被相続人の所有建物(被相続人が配偶者以外の第三者と共有する場合を除く)を対象として,終身又は(遺産分割協議・遺言・遺産分割審判で定める場合は)一定期間,配偶者にその使用又は収益を認めることを内容とする法定の権利が新設されました。遺産分割における選択肢の一つとして,配偶者に配偶者居住権を取得させることができますし,被相続人が遺贈等によって配偶者に配偶者居住権を取得させることもできます。
居住建物を取得した配偶者が(居住建物の資産価値が高いために)他の遺産を受け取れず生活資金に窮するという事態が考えられますが、例えば、居住建物土地を配偶者居住権と負担付所有権(配偶者居住権が消滅した時点の価値に基づく現在価値)に分割して他の相続人が後者を受け取ることにより、配偶者が他の遺産も受け取ることが可能になります。配偶者居住権の設定は、遺産分割又は遺贈による方法のほか、(共同相続人が合意する場合又は配偶者が希望し配偶者の生活を維持するために特に必要と家庭裁判所が認める場合には)家庭裁判所の遺産分割審判によることもできます。居住建物の所有者は配偶者に対して配偶者居住権の登記を具備する義務を負います。配偶者居住権は譲渡することができず、配偶者は、居住建物の増改築や第三者による使用収益をさせるためには居住建物の所有者の承諾を得る必要がありますが、居住建物の使用収益に必要な修繕についてはかかる承諾は不要です。

8.遺留分
兄弟姉妹以外の相続人は、「相続開始時の相続財産額+被相続人の贈与額(相続人以外に対する相続開始前1年以内の贈与及び相続人に対する相続開始前10年以内の婚姻・養子縁組・生計の資本としての贈与)-被相続人の債務全額」の2分の1(直系尊属のみが相続人である場合は3分の1)に法定相続分を乗じた額について、遺留分が認められます。被相続人の贈与や遺贈によって本来の法定相続分よりも少ない相続財産しか相続できない相続人を一定限度で保護する制度です。例えば、相続財産が5000万円で相続人が配偶者と子一人の場合で子が相続財産全部の遺贈を受けたときは、配偶者の遺留分侵害請求額は1250万円(=5000÷2÷2)となります。
遺留分権利者及びその承継人は、受遺者又は受贈者に対して、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求できます。遺留分侵害額請求権は、遺留分権利者が相続開始及び遺留分侵害の贈与又は遺贈を知ったときから1年又は相続開始から10年で時効により消滅します(1042条ないし1048条)。

9.特別寄与料
相続人以外の被相続人の親族が,無償で被相続人の療養看護等を行った場合には,一定の要件の下で,相続人に対して金銭請求をすることができるようになりました。
相続人以外の者(長男の妻等)は被相続人の介護に尽くしても相続財産を取得することはできませんでしたが、被相続人の親族が被相続人に対して無償で療養看護その他の労務を提供したことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした場合は、相続人に対して寄与に応じた額の金銭(特別寄与料)の支払請求ができるようになりました。特別寄与料の額について当事者間で協議が整わない場合は、相続開始・相続人を知ってから6ヶ月以内又は相続開始から1年以内に限り、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求できます(1050条)。