中小企業と財務諸表(完)

2024.04.8

企業支援

財務諸表とは、会社がその活動に伴う財務状況を明らかにするために、会計年度1年毎に作成される一連の決算書類のことを言い、会社法上では、損益計算書(Profit & Loss Statement、P/Lと略称)、貸借対照表(Balance Sheet、B/Sと略称)、株主資本等変動計算書および個別注記表から成ります。なお上場企業の場合は、金融商品取引法の遵守が義務付けられますので、キャッシュフロー計算書および附属明細表が加わります。
起業からまもない中小企業のトップにとって、財務諸表・決算書はどういう意味をもつか、どう係わっていくべきか、提言も含めお話ししたいと思います。

1.財務諸表の作成(1正しい財務諸表をつくるには 2財務諸表を役立てるには)
2.財務諸表の活用(1事業計画の作成 2事業計画と決算の対比・レビュー 3会社業績の分析 4ステイクホルダーへの開示)
3.財務諸表の個別の役割(1損益計算表(P/L) 2貸借対照表(B/S) 3株主資本等変動計算書 4個別注記表 5キャッシュフロー表(資金繰り表))
4.財務諸表を用いた分析(1収益性分析(以上前号まで) 2安全性分析 3生産性分析)
5.最後に

4.財務諸表を用いた分析

4-2.安全性分析
“財務体質は健全か、支払い能力はあるか、倒産リスクはあるか” の分析になります。
当座比率、流動比率と手元流動性比率はキャッシュフロー計算の際に必ずおさえて下さい。
■ 当座比率(%): (当座資産)÷(流動負債)×100
当座資産とは短期間で現金化できる資産のことで、現預金や売掛金、受取手形などです。
流動負債とは1年以内に返済期が到来する負債のことで、買掛金、未払金、短期借入金などのことです。短期的な資金繰りの安定性を確認する指標で、安定性のボーダーラインは100%。150%以上を維持したいものです。
■ 流動比率(%): (流動資産)÷(流動負債)×100
流動資産とは1年以内に現金化できる資産のことで、当座資産に棚卸資産(製品や原材料、仕掛品など。在庫と同じ意味)を加えたものです。150%以上を維持したいものです。
■ 手元流動性比率(%):(現預金+短期有価証券)÷(売上高÷12か月)×100
当座資産の中でもすぐに現金化できる資産の月間売上高に対する割合であり、1か月の売上代金を回収するまでの間、手元資金でまかなえるかを示しています。
■ 固定比率(%): (固定資産)÷(自己資本)×100
固定資産とは、現金化まで1年を超えるもの、長期間の保有を前提とした資産で、土地や建物などの有形固定資産、特許やのれん代などの無形固定資産がこれに当たります。
自己資本とは純資産のことです。要は借入金などと違い返済が不要な資金です。
固定比率が100%を超えれば、借入金に頼らずに事業に必要な固定資産を調達出来ている訳で、事業継続の安全性が高いと判断されます。
■ 自己資本比率(%): (株主資本)÷(総資産)×100
自己資本比率が高ければ、返済しなければならない負債 (他人資本) によってまかなわれている部分が少なく、健全性が高いといえます。

4-3.生産性分析
“投資したものからどれだけの付加価値をのせることができたか、労働・設備から価値が生み出せているか” の分析になります。
■ 付加価値額:経常利益+労務費+人件費+金融費用+賃借料+租税公課+減価償却費
企業が付加した価値の総額であり、企業の生産性を評価するベースとなります。
■ 付加価値率(%): (付加価値額)÷(売上高)×100
企業が物やサービスを販売するときにどれだけ付加価値をつけることができるかの割合を示します。
■ 労働分配率(%): (人件費)÷(付加価値額)×100
会社が儲けた分のうち、どれだけ従業員に使用したかがわかる指標です。労働分配率が高い場合は儲けに対し人件費が経営を圧迫している、低い場合は儲けに対し人手が足りず過剰な労働になっている、ということがわかります。
■ 労働生産性: (付加価値額)÷(平均従業員数)
従業員一人あたりが生み出した付加価値を示します。
■ 一人あたり売上高: (売上高)÷(平均従業員数)×100
従業員一人あたりの売上高を示します。

5.最後に
財務諸表は、会社の経営状況、財務状況を数字で客観的に示す書類です。
企業のトップにとり、その会社の経営ビジョンの作成、日々のかじ取り、企業を存続させるための財務活動を含めた施策、そして会社の顔としてのステイクホルダーへの開示・説明責任などなど、多くの場面で関わらざるを得ない書類になります。
事業をスタートしたばかりで税理士・会計士に丸任せの段階でも、経理・財務のプロを部下に迎え、その作成・管理を一任できる体制になった場合でも、企業家として会社をビジョンをもって動かしたいという想いは変わらないはずです。そして財務的事情で事業継続の危機を迎えることは何としても避けるという決意もあるでしょう。
財務諸表の意味、その分析結果を理解し、攻めと守りの両側面から有効活用して頂ければと思います。