AI等を用いた法的サービスと弁護士法72条の関係(完)

2023.11.20

法的支援

近年、AI等を用いて契約書等の作成・審査・管理業務を一部自動化することにより支援するサービス(「本件サービス」)が普及しつつあります。他方で、弁護士法72条は非弁護士による法的サービスの提供を禁止しているため、両者の関係が問題になります。この点について、2023年8月、法務省から「AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供と弁護士法72条との関係について」(「ガイドライン」)が公表されましたので、その概要を以下ご説明します。

1.弁護士法72条とは
2.弁護士法72条の趣旨
3.ガイドライン
(1)報酬を得る目的
(2)法律事件性
(3)法律事務性
①契約書等の作成業務を支援するサービスについて(以上前号まで)
②契約書等の審査業務を支援するサービスについて
③契約書等の管理業務を支援するサービスについて
(4)例外
4.まとめ

3.ガイドライン
(3)法律事務性
②契約書等の審査業務を支援するサービスについて
×同サービスを提供するために構築されたシステムにおいて、審査対象となる契約書等の記載内容について、個別の事案に応じた法的リスクの有無やその程度が表示される場合
×同サービスを提供するために構築されたシステムにおいて、当該契約書等の記載内容について、個別の事案における契約に至る経緯やその背景事情、契約しようとする内容等を法的に処理して、当該処理に応じた具体的な修正案が表示される場合
○同システムにおいて、審査対象となる契約書等の記載内容と、同サービスの提供者又は利用者があらかじめ同システムに登録した契約書等のひな形の記載内容との間で相違する部分がある場合に、当該相違部分が、その字句の意味内容と無関係に表示されるにとどまるとき
○同システムにおいて、審査対象となる契約書等の記載内容と、同サービスの提供者又は利用者があらかじめ同システムに登録した契約書等のひな形の記載内容との間で、法的効果の類似性と無関係に、両者の言語的な意味内容の類似性のみに着目し、両者の記載内容に当該類似性が認められる場合に、当該類似部分が表示されるにとどまるとき
○同システムにおいて、審査対象となる契約書等にある記載内容について、同サービスの提供者又は利用者があらかじめ同システムに登録した契約書等のひな形の記載内容又はチェックリストの文言と一致する場合や、ひな形の記載内容又はチェックリストの文言との言語的な意味内容の類似性が認められる場合において、
・当該契約書等のひな形又はチェックリストにおいて一致又は類似する条項・文言が個別の修正を行わずに表示されるにとどまるとき
・同システム上で当該ひな形又はチェックリストと紐付けられた一般的な契約書等の条項例又は一般的な解説や裁判例等が、審査対象となる契約書等の記載内容に応じた個別の修正を行わずに表示されるにとどまるとき
・同システム上で当該ひな形又はチェックリストと紐付けられた一般的な契約書等の条項例又は一般的な解説が、審査対象となる契約書等の記載内容の言語的な意味内容のみに着目して修正されて表示されるにとどまるとき
⇒個別の事案に応じた審査は法律事務に該当するが、形式的な比較にとどまる場合は法律事務に該当しないということになりそうです。

③契約書等の管理業務を支援するサービスについて
×同サービスを提供するために構築されたシステムにおいて、管理対象となる契約書等の記載内容について、随時自動的に、個別の事案に応じた法的リスクの有無やその程度が表示される場合やそれを踏まえた個別の法的対応の必要性が表示される場合
○同システムにおいて、管理対象となる契約書等について、契約関係者、契約日、履行期日、契約更新日、自動更新の有無、契約金額その他の当該契約書等上の文言に応じて分類・表示されるにとどまる場合
○同システムにおいて、管理対象となる契約書等について、同サービスの提供者又は利用者があらかじめ登録した一定の時期や条件を満たした際に、当該事実とともに、同システムの利用者が契約書等に関してあらかじめ登録した留意事項等が表示されるにとどまる場合
⇒個別の事案に応じた管理は法律事務に該当するが、形式的要素に応じた管理は法律事務に該当しないということになりそうです。

(4)例外
本件サービスが、報酬を得る目的、法律事件性及び法律事務性の要件のいずれにも該当する場合であっても、以下の利用者であれば通常弁護士法第72条に違反しないとされています。
①本件サービスを弁護士又は弁護士法人に提供する場合であって、当該弁護士又は弁護士法人がその業務として法律事務を行うに当たり、当該弁護士又は当該弁護士法人の社員若しくは使用人である弁護士が、本件サービスを利用した結果も踏まえて審査対象となる契約書等を自ら精査し、必要に応じて自ら修正を行う方法で本件サービスを利用するとき
②本件サービスを弁護士又は弁護士法人以外のものに提供する場合であって、当該提供先が当事者となっている契約について本件サービスを利用するに当たり、当該提供先において職員若しくは使用人となり、又は取締役、理事その他の役員となっている弁護士が上記①と同等の方法で本件サービスを利用するとき
⇒実質的に利用者が弁護士であれば、弁護士法72条の趣旨(弁護士でない者による事件性のある法律事務の提供を防止)に反するおそれもないので、同条違反とはならないということだと考えられます。

4.まとめ
弁護士又は企業内弁護士が本件サービスを利用する場合は問題ないということになります。弁護士以外が本件サービスを利用する場合であっても、実質的な対価が支払われないときや形式的なアウトプットにとどまるときは問題がないということになりそうです。弁護士法72条のもとでは、弁護士をターゲットにしたサービスや弁護士以外も利用できる無料又は形式的内容のサービスが一般的になるものと予想されます。