不正競争防止法等の改正(知財一括法)(その1)

2023.07.24

法的支援

知的財産分野におけるデジタル化・国際化の進展を踏まえ、時代の要請に対応した知的財産制度を見直すため、(1)デジタル化に伴う事業活動の多様化を踏まえたブランド・デザイン等の保護強化、(2)コロナ禍・デジタル化に対応した知的財産手続等の整備、(3)国際的な事業展開に関する制度整備を柱として、不正競争防止法、商標法、意匠法、特許法、実用新案法、工業所有権に関する手続等の特例に関する法律(「工業所有権特例法」)が改正されました。(なお、以下の条文は参考であり網羅されている訳ではありません。)


1.デジタル化に伴う事業活動の多様化を踏まえたブランド・デザイン等の保護強化
(1)登録可能な商標の拡充(以上本号)
(2)意匠登録手続の要件緩和
(3)デジタル空間における模造行為の防止
(4)営業秘密・限定提供データの保護の強化
2.コロナ禍・デジタル化に対応した知的財産手続等の整備
(1)送達制度の見直し
(2)書面手続のデジタル化等のための見直し
(3)手数料減免制度の見直し
3.国際的な事業展開に関する制度整備
(1)外国公務員贈賄に対する罰則の強化・拡充
(2)国際的な営業秘密侵害事案における手続の明確化

1.デジタル化に伴う事業活動の多様化を踏まえたブランド・デザイン等の保護強化
(1)登録可能な商標の拡充
①コンセント制度の導入(商標法4条4項)
先行する他人の登録商標と同一又は類似する商標は、当該登録商標に係る又は類似する商 品・役務についての登録を受けることができませんが、諸外国の多くと同様に、先行する登録商標の権利者が同意し且つ消費者(需要者)に混同が生じるおそれがない場合には併存登録が認められるようになりました(コンセント制度)。混同が生じるおそれがないかの判断に当たっては、商品・役務の用途など、実際に商標が使用される場面で 棲み分けがなされているか等に着目することとされています。商標が併存登記された場合は、混同防止表示請求(混同のおそれがある場合)や不正使用取消審判請求(混同が生じている場合)が可能となります。
②不正競争防止法の適用除外規定の新設(不正競争防止法19条3号)
コンセント制度の安定した活用のため、同意した両者が不正の目的でなく商標を使用している場合には、相手側の商標の使用行為を不正競争行為として扱わない(適用除外)こととされました(不正競争防止法19条)。これにより、同意した商標権者が併存登記した商標権者に対して周知表示混同惹起行為・著名表示冒用行為を理由とする差止・損害賠償請求をすることはできなくなります。
③他人の氏名を含む商標に係る登録拒絶要件の見直し(商標法4条1項8号)
「他人の氏名」を含む商標は、当該他人の承諾がない限り、商標登録を受けることができず、実務上は、同姓同名の他人全員 の承諾が得られなければ商標登録を受けることができません。このため、①「他人の氏名」に一定の知名度の要件と②出願人側の事情を考慮する要件を課し、氏名に一定の知名度を有する他人が存在せず且つ出願人側の事情を考慮する要件を満たしている場合(例えば、商標構成中の氏名が自己氏名等であり、商標登録を受けることについて不正の目的を有していない場合)には、他人の承諾なく商標登録が可能となりました。