日米の訴訟制度を比較してみた(完)

2021.12.27

法的支援

日米の訴訟制度の比較最終回です。

(5)陪審制度
米国では、刑事事件だけでなく民事事件にも陪審制度を採用しており、陪審員の評議によって被告の責任の有無や賠償額が決まります。州によって制度も異なりますが、例えば、損害賠償額については最高額と最低額を除いた残りの額の平均額とするといった具合です。陪審員は法律の専門家ではなく一般的良識に基づいて判断する結果、法律専門家の判断と大きく食い違うこともあります。マクドナルドで購入したコーヒーを膝にこぼしてやけどを負った老人がマクドナルド社を訴えた事件で、陪審員による評議の結果、16万ドルの填補賠償額と270万ドルの懲罰的損害賠償額(*)の支払を命じる評決が下された(最終的には64万ドルの判決、60万ドルの和解)のは有名です。
陪審員の良識に訴えやすい事件であれば、法律専門家が判断するよりも高額の賠償金を期待できると考えて訴訟に踏み切る場合もあるかもしれません。
(*)不法行為に基づく損害賠償請求訴訟等において、加害者の行為が強い非難に値すると認められる場合に、実際の損害の補填としての賠償に加えて上乗せして支払うことを命じられる賠償

(6)その他
他民族国家である米国では、権利や自由を実現するためには訴訟を利用するのが最も手っ取り早いという場面も多いのかもしれません。
また、米国では、事故現場に駆けつけていち早く被害者や家族から損害賠償請求を受任する弁護士を「ambulance chaser」(直訳すれば救急車を追いかける人ですが、困った人の味方の振りをした強欲者の意味で使われます。)と呼んだりします。日本では弁護士会の規則である弁護士職務基本規程10条で「弁護士は、不当な目的のため、又は品位を損なう方法により、事件の依頼を勧誘し、又は事件を誘発してはならない。」とありますので、事故現場に駆けつけて受任するようなことは品位を損なう行為として禁じられ、懲罰対象となり得ます。

3.まとめ
米国で訴訟が多いのは、単に弁護士が多いからではなく、お金がなくても訴訟を提起して勝訴できるという制度が整備されているからと考えます。権利や自由を実現するための社会的装置としての訴訟制度が、日本でもより身近になるといいですね。