日米の訴訟制度を比較してみた(その2)

2021.12.20

法的支援

日米の訴訟制度の比較第2弾です。

(2)証拠開示制度
米国の証拠開示制度(ディスカバリー制度)は、当事者が、正式事実審理の前にその準備のため、法廷外で互いに当該訴訟事件に関する情報及び証拠を開示し収集する手続です。これにより、当事者双方が紛争の具体的内容とこれに関する証拠を把握することができます。ディスカバリーの手続と前後して、裁判所で、裁判官と当事者双方が手続の進行予定、争点整理、トライアル(事実に関する争点について法廷で集中的な証拠調べを行う手続)の準備等について協議するプリトライアル・カンファレンスが開催されることも多いです。
日本では、提訴後の文書送付嘱託(民事訴訟法226条)及び文書提出命令(同223条)、提訴前の証拠収集処分(文書送付嘱託、調査嘱託、専門家の意見陳述の嘱託、執行官による現況調査)(132条の4)といった制度はあるものの、米国のディスカバリーほどの広汎且つ強力な証拠開示は認められていません。
訴訟で勝つためには、主張する事実を証明する証拠の収集が必要です。訴訟の相手方に証拠が偏在している場合等、証拠不足で訴訟を断念せざるを得ないこともあり得ますが、ディスカバリー制度の下では証拠収集のハードルは高くないということになります。

(3)弁護士報酬
米国の弁護士報酬は、タイムチャージ制稼働時間に単価を乗じて算出する方法)のほか、成功報酬制によることも多いです。純粋な成功報酬制の場合、勝訴すれば勝訴金額の何割かの報酬を支払うことになりますが、敗訴しても弁護士報酬を支払わなくてすみますので、弁護士報酬の支払資金を気にすることなく提訴できる訳です。
日本では、純粋な成功報酬制とすることは稀であり、着手金として数十万円を最初に弁護士に支払うのが一般的です。弁護士報酬は勝ったら払うという訳にはいかず、日本で提訴するにはある程度の持ち出しが必要という点は、持ち出しがゼロ(即ちノーリスク)の米国の純粋な成功報酬制の場合とは大きく異なります。
なお、日本では訴訟額に応じた金額の印紙を訴状等(例えば、訴訟額1億円の訴状には32万円)に貼付しなければならない点も米国とは異なります。

(4)クラスアクション
米国では、ある商品の被害者など共通の法的利害関係を有する地位(クラス)に属する者の一部が、クラスの他の構成員の事前の同意を得ることなく、そのクラス全体を代表して訴えを起こすことのできるクラスアクション制度があります。原告は、自身以外のクラス全員の請求権の合計額を訴求でき、判決の効力は、同じクラスに属する者全体(除外の申出をした者を除く。)に当然に及びます。被害者全員の意見集約や個別的な同意取り付けといった事前準備が不要となり、迅速な訴訟提起を図ることができます。
日本では、「消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律」(2017年施行)により消費者契約法に基づき差止請求権を行使できる適格消費者団体のうち内閣総理大臣が認定した特定適格消費者団体が被害回復裁判手続を遂行できますが、これまで数件しか実例がなく、一般的には普及していません。
多数の被害者のために迅速に訴訟提起できるため、個々の被害額が少ない場合であってもクラス全体の被害額は大きいため、勝算が高いケースであれば高額の報酬を見込めるため、弁護士としてもクラスアクションを利用するうまみがあるということになります。