M&Aの基礎知識(その1)

2024.07.8

法的支援

M&A(merger and acquisition)は、企業再編を指す用語として一般的に認知されるようになりました。そこで、経営者として知っておくべきM&Aの基礎知識を以下概説します。

 

1.M&Aの手法(以上本号)

2.M&Aのスケジュール

3.デュー・ディリジェンス(買収監査)

4.対価の決め方

5.M&A本契約の内容

 

1.M&Aの手法

M&Aの法的手法としては、株式譲渡、事業譲渡、会社分割及び合併が基本形です。このほかに、株式交換(会社法767条以下)、株式移転(会社法772条以下)、株式交付(会社法774条の2以下)、第三者割当増資(会社法199条以下)、公開買付(TOB)(金融商品取引法27条の2第1項5号)、MBO等もありますが、本稿では上記基本形に限定して述べます。

①株式譲渡(会社127条以下)

株式を譲渡することにより株主が変更します。買主が対象企業の実質的支配権を取得するためには株主総会の特別決議に必要な3分の2以上の株式議決権が必要です。株式を譲渡するためには、株式譲渡契約の締結⇒株式譲渡代金の支払い⇒株主名簿の書換(株券発行会社の場合は株券の引き渡し)で足り、事業譲渡の場合のような各種移転手続は不要ですが、企業の抱える負債等も引き継ぐことになります。そのため、買主側は、株式譲渡契約締結に先立ち、対象企業の隠れた債務やリスクの有無を確認するためにデュー・ディリジェンス(買収監査)を行うのが通例です。

②事業譲渡(会社法467条以下)

企業の特定の事業に関連する資産・負債・従業員・契約等のみを譲渡します。対象事業の範囲を限定することにより、対象外の事業のリスクを排除することが可能です。買主が企業の収益性の高い特定の事業のみに関心がある場合に適しています。事業を譲渡するためには、事業譲渡契約の締結⇒事業譲渡代金の支払い⇒事業の引き渡しが必要ですが、資産・負債の移転手続(不動産であれば登記手続)、従業員の転籍手続(従業員の同意取得)、契約の移転手続(相手方の同意取得)を個別に行う必要がありますし、対象事業に必要な許認可を買主が改めて取得しなければならないこともあります。「事業譲渡又は合併を行うに当たって会社 等が留意すべき事項に関する指針」(https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00011980&dataType=0&pageNo=1)により、従業員の同意取得に先立ち、労働組合等との事前協議及び従業員との事前協議が求められますので、従業員保護手続については会社分割と実質的に変わらないといえます。また、対象事業の隠れた債務やリスクの有無を確認するためにデュー・ディリジェンス(買収監査)を行うのが通例です。

③会社分割(会社法762条以下)

企業の特定の事業を新設会社(新設分割)又は既存会社(吸収分割)に移転させます。移転の対価を対象企業(分割する企業)が受け取る場合(物的分割)と対象企業の株主が受け取る場合(人的分割)とがあります。新設分割の場合は分割計画書を作成し、吸収分割の場合は分割会社と承継会社間の分割契約書が必要になります。新設分割の場合は、対象企業が新設分割により取得した新設会社の株式を譲渡することになります。事業譲渡と同様に、事業の一部を移転しますが、事業譲渡の場合のような個別の移転手続が不要というメリットがあります。但し、従業員を保護するため、会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律に定める手続(労働者・労働組合への通知、協議等)を遵守する必要があります。事業譲渡と同様に、対象事業の隠れた債務やリスクの有無を確認するためにデュー・ディリジェンス(買収監査)を行うのが通例です。

④合併(会社法748条以下)

企業が相手方企業に吸収されて法人格を失う合併(吸収合併)と企業と相手方企業がいずれも新設会社に吸収されて法人格を失う合併(新設合併)とがあります。株式譲渡と同様に各種移転手続は不要ですが、新設合併では許認可を承継できないため、吸収合併が選ばれることが多いです。株式譲渡と同様に、買主側は、対象企業の隠れた債務やリスクの有無を確認するためにデュー・ディリジェンス(買収監査)を行うのが通例です。

⑤各手法のメリット・デメリット

会社全体を承継させたい場合は株式譲渡又は合併、特定の事業のみを承継させたい場合は事業譲渡又は会社分割が適しています。株式会社の場合は比較的単純ですが、その他の手法による場合は、複雑な手続(債権者保護手続、従業員保護手続等)が必要になります。