IPOをめざそう(その4)~ 資本政策(完)

2024.07.1

企業支援

今回は、IPOの準備の中で、その中心線とも言える資本政策について説明します。資本政策とは、株式の上場を見据えた、株式の発行および株式の移動の計画を言います。作成に当たって考慮すべき要素には、会社に必要な資金の調達の方法と時期、株式売却による株主のキャピタルゲインの獲得、上場後の株主構成、役職員に対するインセンティブプラン、上場審査基準などがあります。これらの要素を事業計画の進展に合わせバランス良く組立てていきます。計画作成は、幹事証券会社などの助言を受けながら経営者自身が判断すべきものです。IPOコンサルの会社、ベンチャ-ファンドなどから助言を受けることがありますが、利益が相反しその立場を有利にするバイアスがかかっている場合もありますので、注意が必要です。

 

資本政策をどのように作成するか、もう少し具体的に見て、考慮すべき要素を簡単に説明します。

 

1.   作成方法

2.   考慮すべき要素

(1)   資金調達の方法

(2)   上場時の公募・売出しとキャピタルゲイン

(3)   上場後の株主構成(以上前号まで)

(4)   役職員に対するインセンティブプラン

(5)   上場審査基準

 

  1. 考慮すべき要素
  • 役職員に対するインセンティブプラン

エクイティを活用した代表的なインセンティブプランとして、従業員持株会とストック・オプション(新株予約権、SO)があります。IPOを実現させるためには、人材の確保は重要な課題です。大企業に比べ、能力次第で若くても重要な仕事ができるなど利点はありますが、安定性は低く報酬や福利厚生は見劣りするのが普通です。役職員に対するインセンティブプランは、役員や従業員に対しキャピタルゲインを獲得する機会を付与するものであり、優秀な人材を獲得のための大きな手段となります。また、IPOを実現に向け方向に会社のベクトルを揃え、モチベーションを大きく上げる効果を持ちます

従業員持株会制度とは、従業員が持株会を通じて、毎月給与天引きで資金を拠出し自社株式を購入していくものです。奨励金の形で会社が補助を出す例もあり、ドルコスト平均法で株式を購入していくことになり、従業員の資産形成に寄与します。IPO前に制度を開始することが可能で、その場合臨時拠出で第三者割当増資や既存株主から譲受によってIPO前の価格で株式が購入できます。あくまでも従業員が任意で加入するものです。会社としては一株主として管理でき、絶対的ではありませんが安定株主として考えることができます。

SOとは、一定の価格で株式を購入できる権利で、SOを割当られた役職員は、IPO前に決められた行使価格でIPO後に権利を行使して株式を取得し売却することが可能です。どの役職員にどれだけ権利

+を付与するか、会社が決定することができます。税制適格要件を満たせば、キャピタルゲインに対する課税が20%に軽減されます。

 

 

  • 上場審査基準

グロース市場に上場する場合、流通株式比率25%以上、流通株式時価総額5億円以上の要件を充足する必要があります。流通株式とは、いわゆる安定株主を除いた市場で流通している一般投資家が取得可能な株式で、東証の上場審査基準では申請会社の役員、役員の配偶者と二親等以内の血族、10%以上の大株主、銀行や保険会社、事業法人等が保有する株式を除いたものとなっています。

また、取引所の規制には、継続保有義務および開示義務があります。継続保有義務とは、IPO直前期の期首以降に第三者割当増資等によって株式を取得した株主は、その株式を上場日から6ヵ月を経過した後で無ければ売却できないとするものです。開示義務とは、直前々期以降の事業年度に実施された、資本政策は原則として上場申請書類の中に開示しなければならないとするものです。特別利害関係者等によって行われた株式売買、第三者割当増資、SOの発行を開示することになります。売買であれば、売買者の名前、株数、価格とその根拠、理由などの開示が求められます。