法律改正2024年(完)

2024.06.24

法的支援

2024年に施行される事業者が知っておくべき法律改正情報について概説します。
1.労働条件の明示          9.電子帳簿保存法法
2.時間外労働の上限規制       10.不当景品類及び不当表示防止法
3.健康保険・厚生年金保険      11.意匠法
4.裁量労働制            12.商標法
5.障害者雇用率の引き上げ      13.不正競争防止法(以上前号まで)
6.障害者差別禁止法         14.不動産登記法
7.フリーランス保護新法       15. 民事訴訟法
8.労働安全衛生法          16.民法                   

14.不動産登記法(2024年4月1日施行)
①相続登記の義務化
相続(遺言による場合を含みます。)によって不動産を取得した相続人は、相続により所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記(所有権移転の登記)の申請をしなければならないことになりました(76条の2第1項)。
遺産分割の協議がまとまったときは、不動産を取得した相続人は、遺産分割が成立した日から3年以内にその内容を踏まえた相続登記の申請をしなければならないこととなりました(76条の2第2項、76条の3第4項等)。
正当な理由がないにもかかわらず申請をしなかったときは、10万円以下の過料の対象となります(164条1項)。
施行日前に相続が発生した場合も適用されます。この場合の3年間の履行期間の起算日は、相続登記義務発生日又は施行日のいずれか遅い方です。
②相続人申告登記
不動産の所有者が亡くなった場合、遺産分割の協議がまとまるまでは、全ての相続人が民法上の相続分の割合で共有している状態となり、遺産分割の協議がまとまったときは、その内容によります。いずれの場合であっても、相続登記を申請しようとする場合、民法上の相続人や相続分を確定しなければならないため、全ての相続人を把握するための戸籍謄本等の収集が必要となります。このため、より簡易に相続登記の申請義務を履行することができるよう、相続人申告登記という新たな制度が設けられました。
相続人申告登記は(1)登記簿上の所有者について相続が開始し、(2)自らがその相続人であることを申し出る制度です(76条の3第1項)。この申出がされると、相続人の氏名・住所等が登記されますが、持分までは登記されません。特定の相続人が単独で申請することができ、法定相続人の範囲及び法定相続人の割合の確定は不要です。相続人申請登記の申請義務の履行期間内にこの申出を行った相続人は、相続登記義務を履行したものと看做されます(76条の3第2項)。

15.民事訴訟法(弁論準備手続期日・和解期日については2024年3月1日施行)
①現行法下では、口頭弁論期日は公開の法廷で行われ、当事者及び訴訟代理人は実際に裁判所に出頭して期日に参加する必要があります(現行法87条1項)。争点整理のために実施される弁論準備手続(現行法168条)については、裁判所が「当事者が遠隔の地に居住しているときその他相当と認めるとき」に、ウェブ会議や電話会議によって実施することができますが、それでも当事者の一方は裁判所に出頭しなければならないこととされています(現行法170条3項但書)。これに対し、同趣旨の手続である書面による準備手続(現行法175条)が行われる場合の裁判所・当事者間の協議は、当事者のいずれも裁判所に出頭することなくウェブ会議等で実施することができ(現行法176条3項)、新型コロナウイルスの感染拡大を機に近時多用されるようになりましたが、同協議では書証の取調べができないという難点もありました。さらに、証人尋問は、遠隔地に居住する証人の負担の軽減又は(当事者等から圧迫を受けることによる)証人の精神的な不安等の軽減に必要な場合に限り、テレビ会議システムを利用して行うことができるとされていますが(現行法204条)、この場合も、証人は、訴訟を審理している裁判所(受訴裁判所)とは別の裁判所、又は受訴裁判所内で当事者等がいるのとは別の場所に出頭しなければならないこととされています(現行の民事訴訟規則123条1項、2項)。なお、当事者尋問にも、上記の証人尋問についての規定が準用されています(現行法210条、現行民事訴訟規則127条)。
②改正法では、裁判所が、相当と認めるとき(当事者が遠隔の地に居住しているときに限られない。)に、当事者の意見を聴いたうえで、ウェブ会議による口頭弁論期日を実施することができ(改正法87条の2第1項)、弁論準備手続において当事者の一方が裁判所に出頭する必要もなくなりました(改正法170条3項)。証人尋問等についても、当事者に異議がない場合で、裁判所が相当と認めるときは、広くウェブ会議による尋問を実施することができ(改正法204条3号)、裁判所以外の一定の場所に証人が所在することが認められる予定です。現行法下では明文規定がないウェブ会議等による和解期日も可能です(改正法89条2項)。

16.民法(2024年4月1日施行)
①嫡出推定制度の見直し
婚姻の解消等の日から300日以内に子が生まれた場合であっても、母が前夫以外の男性と再婚した後に生まれた子は、再婚後の夫の子と推定することとしました(民法772条1項)。
女性の再婚禁止期間を廃止しました(旧民法733条)。
これまでは夫のみに認められていた嫡出否認権を、子及び母にも認めました(民法774条1項ないし3項)。
嫡出否認の訴えの出訴期間を1年から3年に伸長しました(民法777条)。
②懲戒権に関する規定等の見直しのポイント
懲戒権に関する規定を削除しました(旧民法822条)。
子の監護及び教育における親権者の行為規範として、子の人格の尊重等の義務及び体罰などの子の心身の健全な発達に有害な影響を及ぼす言動の禁止を明記しました(民法821条)。
③その他の改正内容
このほか、本法律では、子の地位の安定を図る観点から、事実に反する認知についてその効力を争うことができる期間に関する規定を設けるなどしています(民法786条)。