IPOをめざそう(その4)~ 資本政策(その2)

2024.06.17

企業支援

今回は、IPOの準備の中で、その中心線とも言える資本政策について説明します。資本政策とは、株式の上場を見据えた、株式の発行および株式の移動の計画を言います。作成に当たって考慮すべき要素には、会社に必要な資金の調達の方法と時期、株式売却による株主のキャピタルゲインの獲得、上場後の株主構成、役職員に対するインセンティブプラン、上場審査基準などがあります。これらの要素を事業計画の進展に合わせバランス良く組立てていきます。計画作成は、幹事証券会社などの助言を受けながら経営者自身が判断すべきものです。IPOコンサルの会社、ベンチャ-ファンドなどから助言を受けることがありますが、利益が相反しその立場を有利にするバイアスがかかっている場合もありますので、注意が必要です。

資本政策をどのように作成するか、もう少し具体的に見て、考慮すべき要素を簡単に説明します。

1. 作成方法
2. 考慮すべき要素
(1) 資金調達の方法(以上前号)
(2) 上場時の公募・売出しとキャピタルゲイン
(3) 上場後の株主構成
(4) 役職員に対するインセンティブプラン
(5) 上場審査基準

2. 考慮すべき要素
(2) 上場時の公募・売出しとキャピタルゲイン
IPO時に証券会社は一般投資家に広く株式を販売していくわけですが、その形態には、会社が資金を調達するため発行する新株式に対して投資家を募る「公募」と、既存株主が売却する株式を投資家に取得してもらう「売出し」があります。多くのケ-スでは公募と売出しが併用されます。売出しより公募のウェ-トが高い方が、新たに調達した資金で投資などを実行し、さらなる成長に繋げるというエクイティ・スト-リ-が描きやすく、投資家の評価を得やすいと考えられます。
具体的なイメ-ジをつかむため、IPO前は創業者が500万株の株式を100%保有、IPO時に一株3000円、公募100万株、売出し100万株を行った場合を想定してみます。時価総額は600万株×3000円で、180億円となります。グロ-ス市場では、証券会社が引受けて販売する手数料とリスクに対するディスカントを合わせて8%が引かれるため、会社にとっては100万株×3000円×92%、27億76百万円の資金調達となり、創業者にとっては当初の株式取得コストを500円とすれば、資金を回収し100万株×(3000円-500円)×92%、23億円のキャピタルゲイン(ただし、税金が20%程度かかります)を獲得することになります。

(3) IPO後の株主構成
IPOにより、広く一般の投資家が自由に売買されるようになります。一般の投資家は一旦株式を取得しても株価が上昇すれば売却するため、アクティビストなどの投資家に流通株式を買集められることもあり得ます。株式比率とその権利について良く理解し、どの程度の安定株主を確保するのかを検討し、資本政策を考える必要があります。例えば、IPO前は創業者など安定株主が500万株の株式を100%保有、IPO時に公募増資100万株、売出しを100万株行った場合を想定しますと、IPO後には発行済株式総数は600万株、安定株主は400万株で、その比率は66.7%となります。
留意すべき重要な株主の権利としては、株主総会の決議があります。計算書類の承認、役員の選解任、役員の報酬、配当は普通決議によって決められます。普通決議は、議決権ベースで過半数以上の出席を定足数とし、その出席株主の過半数の議決権で決議が可能です。合併、分割、株式交換などの組織再編、重要事業の譲渡、定款の変更などのためには特別決議が必要で、議決権ベースで過半数以上の出席を定足数とし、決議要件はその出席株主の議決権の3分の2以上となります。その他3%以上保有する株主は、株主総会の招集請求権、役員の解任請求権、帳簿の閲覧請求権を、1%以上保有する株主は株主総会の議案提案権を有することになります。
株式を公開することは、誰もが自由に株式を取得できるようになるわけであり、会社が成長すれば安定株主比率を高く維持するのは難しくなります。先に触れた通り、銀行や生保・損保など、長年に渡り政策保有株として取引先の株式を保有してきましたが、被保有会社のガバナンスが弱まること、保有会社にとっては資本効率を低下させること(日本の会社が欧米に比しROEが低い一要因となっている)、また株価下落リスクを抱えることなどから、政策保有株を売却し無くしていく流れとなっています。一番の買収防衛策は、一般投資家からこの経営陣に経営を委ねるのがベストであると評価を得ることだといえます。