法律改正2024年(その9)

2024.06.7

法的支援

2024年に施行される事業者が知っておくべき法律改正情報について概説します。
1.労働条件の明示          9.電子帳簿保存法法
2.時間外労働の上限規制       10.不当景品類及び不当表示防止法
3.健康保険・厚生年金保険      11.意匠法
4.裁量労働制            12.商標法(以上前号まで)
5.障害者雇用率の引き上げ      13.不正競争防止法
6.障害者差別禁止法         14.不動産登記法
7.フリーランス保護新法       15. 民事訴訟法
8.労働安全衛生法          16.民法                   

13.不正競争防止法(2024年4月1日施行)
①デジタル空間における模造行為の防止(不正競争防止法2条3号)
不正競争防止法は、他人の商品形態を模倣した商品(酷似したモノマネ品)の提供行為 (形態模倣行為)を規制していますが、有体物の商品を想定しています。近年、デジタル技術の進展、デジタル空間の活用が進み、現行法では想定されていなかったデジタル上の精巧な衣服や小物等の商品の経済取引が活発化しています。このため、有体物に加え、デジタル空間上の商品の形態模倣行為(電気通信回線を通じて提供する行為)も 規制対象とし、デジタル空間上の商品の保護が強化されることになりました。
②限定提供データの定義の明確化(不正競争防止法2条7号)
不正競争保護法によりビッグデータ保護制度(*)が創設(地図データ、消費動向データ等。令和元年7月施行)されましたが、「秘密管理されていないビッグデータ」のみが保護対象とされています。近年、自社で秘密管理しているビッグデータであっても他者に提供する企業実務があることから、対象を「秘密管理されたビッグデータ」にも拡充し、営業秘密と一体的な情報管理が可能となりました。
(*)限定提供データ制度:ビッグデータを安心して他者と共有・利活用できるように、不正取得等に差止など対抗手段を設ける保護制度
③損害賠償額算定規定の拡充(不正競争防止法5条)
営業秘密等の損害額(逸失利益)は、侵害行為と損害との因果関係が明らかでない場合が多く立証が困難なため、損害額を原則「侵害品の販売数量×被侵害者(営業秘密保有者)の1個当たりの利益」と推定して算定することで立証負担を軽減しています(損害賠償算定規定)が、被侵害者の生産・販売能力超過分の損害額は認められませんでした。適切な損害回復を図るため、超過分は侵害者に使用許諾(ライセンス)したとみなし、 使用許諾料相当額として損害賠償額を増額できることになりました。これにより、生産能力等が限られる中小企業も、能力超過分はライセンス料相当額として増額することが可能になりました。また、現行法では「物を譲渡」する場合に限定されていた対象を、デジタル化に伴うビジネス多様化を踏まえ、 「データや役務を提供」する場合にも拡充されました。
④使用等の推定規定の拡充(不正競争防止法5条の2)
原告(営業秘密保持者)から不正取得した「営業秘密(生産方法等)」を被告(侵害者)が実際に使用しているかを原告が立証することは困難なため、被告が「営業秘密」を不正取得し且つ「その営業秘密」を使用すれば生産できる製品を生産している場合には、被告が「その営業秘密」を使用したと推定する規定が設けられていますが、推定規定の適用対象となる被告は産業スパイ等の悪質性の高い者(営業秘密へのアクセス権限がない者・不正に取得した者からその不正な経緯を知った上で転得した者)に限定されています。改正負では、オープンイノベーションや雇用の流動化を踏まえ、推定規定の適用対象を、元々アクセス権限のある者(元従 業員)や不正な経緯を知らずに転得したがその経緯を事後的に知った者にも同様に悪質性が高いと認められる場合に限り拡充しました。
⑤国際的な事業展開に関する制度整備
(a)外国公務員贈賄に対する罰則の強化・拡充(不正競争防止法21条4項、5項、22条1項)
OECD 外国公務員贈賄防止条約に基づく外国公務員贈賄罪について、OECDからの勧告も踏まえ、条約をより高い水準で的確に実施するため、国内のバランスも踏まえつつ他の加盟国と遜色のない水準となるよう、自然人・法人の法定刑(罰金・懲役)が引上げられました(自然人:500万円以下又は5年以下⇒3000万円以下又は10年以下、法人:3億円以下⇒10億円以下)。
また、現行法上、日本企業従業員の贈賄行為は、日本国内での行為は国籍問わず(属地主義)、海外での行為は日本人のみを処罰対象とし(属人主義)、外国人従業員による単独行為は対象外としています。そこで、海外での贈賄行為を従業員の国籍 を問わず処罰可能とし、結果として外国人従業員が所属する日本企業も両罰規定により処罰できることが明確化されました。
(b)国際的な営業秘密侵害事案における手続の明確化(不正競争防止法19条の2、19条の3)
日本国内で事業を行う企業の営業秘密が侵害された場合、刑事(懲役・罰金)では海外での侵害行為も処罰可能です(国外犯処罰)。一方、民事(差止・損害賠償)では、日本国内の裁判所で日本の法律(不競法)に基づき裁判を受けられるのか、事案によっては不明確です(*)。このため、日本国内で事業を行う企業の、日本国内で管理体制を敷いて管理している営業秘密に関する民事訴訟であれば、海外での侵害行為も日本の裁判所で日本の不競法に基づき提訴できることが明確化されました(中小企業も、日本の裁判所で日本語で海外企業を提訴可能であることが明確化されました。)。但し、「専ら海外事業にのみ用いられる営業秘密」の場合は、従来と同様に、「民事訴訟法」「法の適用に関する通則法」に基づき裁判所が判断します。
(*)裁判管轄は「民事訴訟法」、準拠法は「法の適用に関する通則法」に基づき裁判所が判断されますが、判断によっては、裁判管轄・準拠法が日本・日本法ではない可能性もあります。