5分でわかる人権デユー・ディリジェンス(その1)

2023.05.25

企業支援

企業による人権尊重の取り組みはSDGsの重要な要素とされ、人権デュー・ディリジェンスということは言われるようになりました。以下では、人権デュー・ディリジェンスの基本的枠組みについて概説します。

1.ガイドラインの公表
2.企業の取り組みによるメリット
3.ガイドラインの射程
4.企業に求められること
5.人権方針の策定(以上本号)
6.人権デュー・ディリジェンスの実施
7.自社が人権への負の影響を引き起こし又は助長している場合における救済
8.留意点

1.ガイドラインの公表
国連人権理事会で支持された「ビジネスと人権に関する指導原則」(2011年)を受け、2022年9月、国際スタンダードに基づくガイドラインとして「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」(経済産業省:ビジネスと人権に関する行動計画の実施に係る関係府省庁施策推進・連絡会議)(「ガイドライン」)が策定されました。

2.企業の取り組みによるメリット
ガイドラインは法的拘束力を有するものではありませんが、企業による人権尊重の取り組みによるメリットとしては、(a)企業が直面する経営リスク(不買運動、投資先としての除外・撤退・評価降格、取引停止等)の抑制、(b)海外の規制強化や海外との取引における予見可能性の向上、(c)ブランドイメージの向上、(d)投資先としての評価向上、(e)取引先との関係向上、(f)新規取引先の開拓、(g)優秀な人材の確保・定着、(h)強靱で包摂的な国際競争力あるサプライチェーンの構築等が考えられます。但し、企業による取り組みの目的はあくまで人権尊重であり、これらのメリットは副次的効果に過ぎません。

3.ガイドラインの射程
ガイドラインは、日本で事業活動を行う全ての企業を対象とし、人権尊重の取り組みの対象は、国内外の自社・グループ会社及びサプライヤー等となっています。サプライヤー等とは、サプライチェーン(原材料・設備等の調達・確保、自社製品・サービスの販売・消費・廃棄等)上の企業及びその他のビジネス上の関係先(自社の事業・製品・サービスと関連する他企業)を指します。

4.企業に求められること
ガイドラインは、全ての企業が人権尊重責任を負い、企業活動における人権への負の影響の防止・軽減・救済に取り組むことを求めています。企業がその人権尊重責任を果たすために取り組むべき内容は、①人権方針の策定、②人権デユー・ディリジェンスの実施、③自社が人権への負の影響を引き起こし又は助長している場合における救済の3つです。

5.人権方針の策定(①)
企業は、人権方針を策定して、人権尊重責任を果たすというコミットメント(約束)を企業の内外のステークホルダー(*)に向けて明確にすることが求められます。
具体的プロセスとしては、人権尊重の取組みの必要性及び今後のプロセスについて企業のトップを含む経営陣と共有し、ステ-クホルダ-との対話・協議等を通じて人権課題を整理し、リスク・経営方針を反映した最終版を作成し、取締役会での決議等を経て人権方針の公表(及び社内規則等への反映)を行うことになります。
人権方針は以下の5要件を満たすことが求められています。
(i) 企業のトップを含む経営陣で承認されていること
(ii) 企業内外の専門的な情報・知見を参照した上で作成されていること
(iii) 従業員、取引先、及び企業の事業、製品又はサービスに直接関わる他の関係者に対する人権尊重への企業の期待が明記されていること
(iv) 一般に公開されており、全ての従業員、取引先及び他の関係者にむけて社内外にわたり周知されていること
(v) 企業全体に人権方針を定着させるために必要な事業方針及び手続に、人権方針が反映されていること
(*)「ステークホルダー」とは、企業の活動により影響を受ける又はその可能性のある利害関係者(個人又は集団)(取引先、自社・グループ会社及び取引先の従業員、労働組合・労働者代表、消費者のほか、市民団体等の NGO、業界団体、人権擁護者、周辺住民、先住民族、投資家・株主、国や地方自治体等)をいいます。