少子化問題の本質を考える(完)

2023.05.1

子育て支援

現国会でも議論されている少子化問題についての一考察です。
1.少子化の現状
2.少子化がもたらす諸問題
3.少子化の背景
4.海外の状況
5.解決の方向性
6.結婚しない理由
7.婚姻数増加の方策
8.婚外子割合増加の方策(以上前号まで)
9.特効薬は何か
10.最後に

9.特効薬は何か
働き方改革、非正規労働者の待遇改善、セクハラ・マタハラ防止策、育児休業制度の拡充、育児時間制度の改正、待機児童の解消等、これまで様々な方策が講じられてきましたが、残念ながら現在のところ少子化問題解消の兆しは見えていません。
小池都政が子育て世代に対する補助金を導入しましたが、これは既に(ほとんどの場合は結婚して)出産した人への経済的援助であり、援助規模が相当大きくない限り、これから結婚を考えている人に対する結婚への誘因としては弱いと言わざるを得ません。即ち、既に結婚している子育て世代への経済的援助は「子育て支援」ではあっても「少子化対策」とは異なるということです。少子化対策は、子育て支援とは一応切り離して考える必要があると思われます。現国会での議論も、少子化対策と言いながら実は子育て支援の議論をしている場面があるのが気になります。
私見ですが、少子化対策としては、①育児が就労上の障害とならないこと、②妊娠・出産・育児から復帰した後もキャリア形成できること、③シングルマザーの育児期間中(特に初期)の経済的不安をなくすことが最も効果的と考えます。①②は婚姻数増加(上記7)、③は婚外子割合増加(上記8)に関するものです。
①については、乳児から小学校高学年になるまでの間の保育体制を完備することで、子育て期間中であっても従前と同じように就労することが可能になります。そのためには、保育所・託児所の数的確保だけでなく、利用時間の柔軟化(残業になったら面倒を看てくれる体制)、病児保育(具合が悪くなった子供を親が就業時間中に引き取りに行かなくてもすむ体制)、学童保育(就学児童の放課後の面倒を看る体制)についても充実させることが必要です。
②については、復職後のキャリア形成についての社内ルール作り(昇進・昇給・待遇等)、復職時の教育・研修制度の確保(スキル回復のための助走期間の確保)等により、復職後のキャリア形成について「見える化」することが必要と考えます。実施する主体は企業になりますが、最初は企業の努力義務、将来的には義務化ということも考えられます。
③については、シングルマザーへの出産・育児に対する十分な額の補助金が効果的と考えます。例えば、シングルマザーが安心して子育てに集中できるようにするために必要な生活資金として出産後2年間毎月10万円を支給すると、一人当たり年間240万円の予算が必要になりますが、仮に対象者が20万人(現在は2万人程度)の場合でも年間2400億円の予算で済みます。婚外子割合が増えれば、婚外子に対する社会的偏見も少なくなります。教育費の無償化も有効ですが、上記①を前提とすれば、出産直後の経済的不安の解消が喫緊の課題と考えます。
新設されたこども家庭庁の予算は4乃至5兆円ありますので、効果的な施策に予算を使っていただきたいところです。

10.最後に
育児をしながらノーベル賞を2回受賞したキュリー婦人は、研究と子育ての両立について、「私は子どもを育てることと研究することを同じ次元で考えています。よい研究をすることは社会への奉仕ですが、社会のためになるような素晴らしい人間を育てることも研究同様、社会への奉仕と考えています。」と述べています。育児に対する全ての人の意識改革が重要です。