IPOをめざそう(その2)~どんな企業ならIPOできるのか(完)

2023.02.14

企業支援

上場は将来の目標であり夢であると考える創業者は多いのではないでしょうか。では、どんな企業ならIPOできるのでしょうか。

1.取引所の概要
2.上場審査基準
(1)形式基準(以上前号)
(2)流通株式時価総額
(3)実例
(4)実質基準

2.上場審査基準
(2)流通株式時価総額
株主数、流通株式数や流通株式比率の基準は、上場時の株式の公募(新規発行株式の募集)または売出し(既存株主の株式の売却)によって充足される見込みであれば良く、事前に株主構成や新株発行による資金調達などの計画(資本政策)を作り準備する必要はありますが、対応は比較的容易です。しかし、流通株式時価総額5億円以上という基準は、テクニカルな対応ではクリアーできません。また、この基準は上場後も維持することが求められます。仮に、流通株式が全体の1/3であれば、最低でも会社全体で15億円の時価総額が必要ということになります。PER(株価収益率、市場の一般的な評価指標の一つで株価が当期利益の何倍になっているかを表す)15倍(12/23現在、日経平均採用銘柄の平均PERは12.23倍)で評価されるとすれば、予想当期利益は最低1億円が上場の目安ということになります。時価総額が小さいと、公募増資によって調達できる資金や既存株主の売出しによって得られるキャピタルゲインが小さくなり、上場準備や上場維持にかかるコストと労力に見合わないものになります。上場時に株式を引受けて販売する証券会社にも歓迎されないでしょう。
(3)実例
実際には、2021年に新規公開した125社のうち、上場時時価総額が30億円未満は12社で、最も小さかったのは6.3億円((株)フロンティア、福岡証券取引所Q-Board)、申請した決算期の予想利益が赤字だったのは13社でした。2022年の新規公開は91社で、上場時時価総額が30億円未満は19社、最も小さかったのは9.6億円(ペットゴー(株)、東証グロース)、11社が予想利益赤字でした。予想利益が赤字で上場が成就したということは、赤字が一時的であるとか、赤字でも高い成長性を持ち将来利益が伸びていくと投資家が判断したということです。世界的に金融引締の方向にある状況下では、投資家はより保守的にならざるを得ず赤字上場のハードルは高くなっていくと思われます。
(4)実質基準
「実質審査基準」は、1.企業内容、リスク情報等の開示の適切性、2.企業の健全性、3.企業のコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性、4.事業計画の合理性、5.その他公益又は投資者保護の観点から東証が必要と認める事項の5つの適格要件で構成されています。上場審査は、上場申請する会社が提出する「新規上場申請のための有価証券報告書(一の部)」、「新規上場申請者にかかる各種説明資料」及び「事業計画及び成長可能性に関する事項」のドラフトの記載内容を中心に、書類審査、ヒアリングや実地調査などにより行われます。
グロース市場の役割は、新しい企業に成長のための資金提供の場を提供することです。利益基準等が無い代わりに、「高い成長の可能性」を有することが上場の要件になっており、それを合理的に説明できるかが重要なポイントとなります。主幹事を務める証券会社も、「高い成長の可能性」を有するか否かについて判断を求められ、「高い成長の可能性」を有している旨を記載した「上場適格性調査に関する報告書」を東証に提出します。先に述べた上場申請する会社が提出した「事業計画及び成長可能性に関する事項」のドラフトと合わせ、ビジネスモデル、市場環境、競争力の源泉、リスク情報など、事業計画の適切性が審査されることとなります。
上場後も「事業計画及び成長可能性に関する事項」の継続的な開示が義務付けられおり、市場でフォローされていくことになります。

次回以降、具体的な上場に向けた準備について、関係者や期間、費用などについて説明していきたいと思います。