目標設定と展開について~欧米での経験から~(その2)

2022.10.10

企業支援

目標設定と展開について~欧米での経験から~(その2)

1.総論
2.各論
1)目標設定のやり方 ①事例1(以上前号)、②事例2
2)目標達成に向けた展開方法 ①目標設定と課題分析(以上本号)、②展開方法
3)個別目標と全体目標について

2.各論
1)目標設定のやり方
②事例2
もう一つ思い出すことがあります。毎月初めに、大きな紙を貼りつけたボードが営業フロアの隅に用意され、紙には一本の縦線が書いてあり、線の中ほどに当月の販売計画台数を示すマークが数字とともに記入されていました。参加を希望する人間は1ドルを出し予想販売台数と自分の名前を縦棒の上下に記入し、実際の販売台数に一番近い数字の人間が総取りする、という仲間内の小さな賭けゲームでした。そして、いつも決まって販売統括の米人副社長の名前と数字が、計画よりもはるか上の位置にありました。全員が見るボードですので、地区担当部長クリスの名前があると販売店に手応えを感じているんだ、とかマーケティング担当課長ジムの名前を見つけて今月のTVコマーシャルに自信があるんだな、と名前と数字を見合わせながら、フロアに集まったスタッフ間でワイガヤと声が起きます。とにかく販売統括者の数字が目茶苦茶高いわけですから、同調圧力が生まれて計画より低い数値は書きにくい状況です。部長や課長がそういう読みならばスタッフ達も、もうひと頑張りすれば上の数字が狙えるのではという思いが生まれ、フロア全体にやれるんじゃないかという熱気が広がります。これはほんの一例ですが、部下のモチベーションを奮い立たせるため、米人マネジメントの様々な工夫の積み重ねには、本当に感心させられたものです。
改めて思うことは、目標達成には「祭り」のような明るく元気な勢いが必要なこと、達成しようという緊張感は必要ですが気難しい面持ちで追い込んでもほとんど役に立たないこと、最後は現場の声を信頼し応援すること、などです。目標の展開にあたり、実施する現場の人の気持ちを考えて進めることが、達成のためには本当に重要だと思います。

2)目標達成に向けた展開方法
①目標設定と課題分析
ヨーロッパでは、こんな経験をしました。通常、会社は複数の目標を設定します。例えば、販売台数を増やすこと、コスト低減をすること、技術力を向上させること、品質を改善すること、といった具合です。普通、こうしたベクトルの異なる目標を同時に達成させようとすれば、実行を担当する人の目からは大変な無理難題に映り、強い反発が起きかねませんが、貴方ならば社内のメンバーをどう説得しますか?

話を単純化するために、販売台数(販売促進費用)と販売品質向上(顧客満足度費用)の二つに絞って考えます。一定のコスト制約下では、予算の限度枠が決まっていますから、顧客満足度向上策に費用をかければかけるほど販売品質は向上しますが、一方で販売促進費が減るため、販売台数が低下します。逆に、販売促進費を増やせば台数は伸びますが、販売品質は後回しになり長期的に問題を引き起こします。従って、販促費用と顧客満足向上費用の組合せは、コスト制約線上を左上から右下の間を動くことになります。

勤めていた会社は、全方面で改善活動を強力に推進しており、欧州統括会社で働いていた私も、各国の販売責任会社に対して、予算を絞りながら、販売台数増加と顧客満足度を同時に向上してもらうことが、仕事の一つでした。
厳しい会社方針を説明するため資料を準備していましたが、実際に方針を実施し、販売店に展開しなければならない各国販売責任会社の立場から見れば無理な要求に映り、優先順位をつけるべき、などという反発が当然、想定されました。会社方針は、統括会社から各国販売責任会社、各国販売責任会社から各国販売店、と隅々まで浸透させることが必要であり、各国販売責任会社の納得感を得られないまま展開してしまうと、末端の販売店担当者でも本気の取組みにならず、お客様は販売店の表面的な対応のいい加減さにすぐに気づき、実効性のないものとなります。