目標設定と展開について~欧米での経験から~(その1)

2022.09.26

企業支援

1.総論
2.各論
1)目標設定のやり方 ①事例1(以上本号)、②事例2
2)目標達成に向けた展開方法 ①目標設定と課題分析、②展開方法
3)個別目標と全体目標について

1.総論
事業計画の作成は、まず会社の目標を明確にすることから始まります。会社レベルの目標に加えて個人レベル、さらには地域別や時間別など、より具体的な目標を立てることが求められます。
目標設定について経営の本をひもとくと、SMARTという言葉が出てきます。SはSpecific(具体的に)、MはMeasurable(定量的に測定できるように)、AはAchievable(達成できるレベルに)、RはResult oriented(最終目標への関連づけ)、TはTime setting(達成時間を設定)、となります。こうしたビジネススクール的な概念を頭では理解していても、いざ現実に、目標を立てて進めようとすると中々容易ではありません。
また、目標設定は、やり方次第では目標を付与される側のモチベーションと深く関係しています。基本的に、目標をつくる側は高目の目標を設定し、実行する側はやらされ感や負担の公平感に不満を持ちやすい構図となります。特に、日本の会社では、大体において高い目標を設定する場合が多いようです。チャレンジングな目標を設定することで、通常のやり方では上手くいかない状況を作り出し、知恵を懸命に出させることで会社を強くしていこうという意図からでしょうが、真面目な部下が一生懸命に努力しても、今一歩達成には及ばずというケースが起こります。こうした場合、マネジメントは「よく頑張ってくれたが、今一歩の未達に終わった。次回は必ず達成しよう。」と残念と言いたいのか、激励しているのか、良く判らない言い方をします。そして、いつの間にか未達が常態化してしまい、会社の目標とはこういう性格のもんだ、と捉えてしまう人達もたくさん見てきました。

では、会社の運営で予算や時間に制約がある中、適切な目標を設定して、担い手となる人々の納得と協力を得ながら達成するためにはどうすれば良いのか、小生の限られたビジネス体験を交えながら、アイデアの一端をご紹介したいと思います。

2.各論
1)目標設定のやり方
私は日米欧で自動車ビジネスに従事した際に、この目標設定の仕方が欧米では少し違うという感覚を持つことが多くありました。まず米国での体験談から話を進めます。
①事例1
自動車販売では、年間の販売目標を設定し、さらに月ごとの目標に分けることで毎月の進捗状況を管理します。まず年間の目標数字の置きかたですが、利益計画から高めの数字を達成したい日本側と、販売店に無理な押し込み販売をさせたくない米国側の間で、大きな乖離が生まれます。このため、論理的に攻めてくる日本側に対し、米国の販売現場の状況を伝えて何とか納得してもらうための調整交渉がいつも必要となります。さらに、毎月の販売計画でも米国サイドは、当初月に極めて控え目な目標数字を設定し段階的に高めていくような月度計画を作ります。米人パートナーが、スタート月の目標をあまりに低く設定しようとするため、これでは控え目の年間目標すら達成が覚束なくなると不安になった私は、傘下の販売店に頑張ってもらうために、もう少し高い目標を設定してはどうかと強く異を唱えました。
彼の返事は、「我々はほめられることで頑張りを引き出す文化だ。最初のハードルを小さくすることで達成を容易にして、よく出来た、我々は成功していると認め合い、今の進めかたに自信を持つ。これが次の成功の弾みをつけるんだ。」という返事でした。日本側からは、本当にそんな低い数値でスタートして大丈夫か、至急見直しされたしという要請がきます。日米の違う見解に挟まれながら、日本側には今後数字を大きく引き上げていくから信頼してほしいと説得し、米人側には上手くいかない場合に備えてバックアッププランを用意してほしいと頼むことで、何とか両方に納得してもらえるよう、調整に必死になる毎日でした。
毎年、販売計画の策定の時期になると、米人のつくる目標設定にハラハラしながらも、米人サイドに立って日本側を説得する、というのが年中行事だったように思います。では実際の販売実績はどうだったかと言えば、月毎の販売結果に山谷はあったものの、締めてみると、目標を上回ることで年間の販売記録を更新することができていました。
目標のハードルを低く設定して少しずつ上げていくやり方が、最初から高い目標を与えて頑張らせるやり方より優れている、と言いたい訳ではありません。ビジネスは置かれた局面や環境によって、適切なやり方は変わります。大事なことは、現場の意見に素直な気持ちで耳を傾け、その妥当性を自分が納得したら、事前に想定していたことを見直す勇気を持つ、そして柔軟に対応していく、といった姿勢ではないかと思います。