改正土地所有法制(完)

2022.09.2

法的支援

1.相隣関係
①隣地使用権 ②竹木の枝の切除等 ③設備設置権及び設備使用権
2.共有等
①共有物を使用する共有者と他の共有者との関係 ②共有物の変更 ③共有物の管理 ④裁判による共有物の分割 ⑤相続財産に属する共有物の分割の特則 ⑥所在等不明共有者の持分の譲渡
3.所有者不明土地建物・管理不全土地建物の管理命令
①所有者不明土地管理命令 ②所有者不明建物管理命令 ③管理不全土地管理命令 ④管理不全建物管理命令 [以上前号まで]
4.相続等
①相続財産等の管理 ②相続を放棄した者による管理 ③不在者財産管理制度及び相続財産管理制度における供託等及び取消 ④相続財産の清算 ⑤遺産分割に関する見直し

4.相続等
①相続財産等の管理
・改正前の相続財産の管理制度としては、①相続人の存否不明の場合における清算を目的とする相続財産管理制度(951条以下)と②相続の承認・放棄までの熟慮期間中(改正前918条2項)、限定承認後又は相続の放棄後次順位相続による相続財産開始前における相続財産管理制度(保存のための管理制度)(改正前918条2項、926条」2項、936条3項、940条1項)がありましたが、①については手続が重く費用がかかる、②については熟慮期間経過後遺産分割前の暫定的な共有状態にある相続財産の管理に利用できないといった難点がありました。改正により、相続人不明の場合や相続財産が熟慮期間経過後の暫定的な共有状態にある場合を含めて保存のための管理制度に一本化されました。
・家庭裁判所は、利害関係に又は検察官の請求により、いつでも、相続財産の管理人の選任その他の相続財産の保存に必要な処分を命ずることができることになりました(897条の2第1項)。但し、相続人が一人である場合においてその相続人が相続の単純承認をしたとき、相続人が複数ある場合において遺産の全部の分割がされたとき、又は952条1項の規定により相続財産の清算人が選任されているときは、この限りではありません。
②相続を放棄した者による管理
・改正前は、相続の放棄をした者は次順位相続人が相続財産の管理を開始するまでの間自己の財産におけると同一の注意義務をもって相続財産を管理しなければならないとされていました(940条)ところ、管理義務の内容についての解釈上不明な点が改正により明確になりました。
・相続の放棄をした者は、放棄時に相続財産に属する財産を現に占有している場合は、相続人又は952条1項の相続財産の清算人に当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけると同一の注意義務をもって当該財産を保存しなければならないこととなりました(940条1項)。
③不在者財産管理制度及び相続財産管理制度における供託等及び取消
・改正前は、不在者財産管理制度において供託の明文がなく供託が不在者財産管理人の選任取消事由として規定されていなかったのですが、改正により、供託が不在者財産管理人の選任取消事由に追加され、また改正により一本化された保存のための相続財産管理制度にも同様の規律が設けられました。
・家庭裁判所が選任した管理人は、不在者の財産の管理処分その他の事由により生じた金銭を供託することができ(家事事件手続法146条の2第1項)、家庭裁判所は、管理すべき財産の全部が供託された等の場合は、不在者、管理人又は利害関係人の申立により又は職権で管理人の選任その他の不在者の財産に関する処分の取り消しの審判をしなければならないことになりました(家事事件手続法147条)。相続財産の保存又は管理に関する処分の審判事件についても、上記規定が準用されます(家事事件手続法190条の2第2項)。
④相続財産の清算
・改正により一本化された保存のための相続財産管理人と清算を目的とする「相続財産の管理人」を区別するため、後者の名称が「相続財産の清算人」に改められました(936条1項、952条ないし956条)。
・相続人不明の場合の相続財産管理人について、「相続人の清算人」への名称変更に加え、選任公告期間及び相続人捜索公告期間の短縮と事務手続の合理化がされました(952条2項、957条1項等)。
⑤遺産分割に関する見直し
・遺産分割促進のため、903条乃至904条の2(特別受益・寄与分)の規定は、相続開始から10年を経過した後にする遺産分割については適用しないこととなりました(904条の3)。但し、①相続開始から10年を経過する前に相続人が家庭裁判所に遺産分割請求をした場合及び②相続開始から始まる10年の期間満了前6ヶ月以内間に遺産分割請求をすることができない事情が相続人にあった場合において、その事由消滅時から6ヶ月経過前に当該相続人が家庭裁判所に遺産分割請求をした場合は、この限りではありません。
・上記改正により特別受益・寄与分の主張期間が制限される相続人を保護するため、遺産分割の調停又は審判の申立の取り下げは、相続開始から10年を経過した後は、相手方の同意を得なければその効力を生じないこととなりました(家事事件手続法199条2項、273条2項、82条4項)。相続開始後10年を経過後に申し立てられた遺産分割の調停又は審判についても同様です。
・共同相続人は、5年以内の期間を定めて遺産の全部又は一部の分割をしない旨の契約をすることができ、5年以内の期間を定めて更新することもできますが、その期間の終期は相続開始から10年を超えることができません(908条2項、3項)。審判による遺産分割禁止期間についても同様も規律となりました(908条4項。5項)。この期間制限は、特別受益・寄与分の主張期間の制限と整合させるため趣旨です。