海外で仕事をする際の心得(その3)

2022.07.15

企業支援

前回、インドネシアについて寄稿した際に、海外で働く、事業を海外に展開したいと思う方々に向け「海外のどこの国や地域においても独自の文化や国民性があり、それを理解する事が出発点になる」とお伝えしました。
今回は「海外で仕事をする際の心得」についてお話ししたいと思います。

筆者は職歴から海外出張をする機会が多く、滞在した国の数は20を超えます。内訳は、米国、英国、仏国、そして東アジア・東南アジア・中近東・アフリカ(英語圏)の国々です。
そんな経験を経ての「心得」になりますから、世間一般のものより若干かたよっているかもしれませんが、筆者はこれを信じ、先進国を除く地域に赴任する同僚・後輩に伝えてきました。ここでご紹介したいと思います。

1.その国を良く知る。
2.日本人で群れて良い。
3.緊張感を持続してもつ。(以上前号まで)
4.受け容れる。でも、こだわる。
5.早いうちから日本側に理解者・協力者をつくっておく。
6.現地にブレーンをつくる。

4.受け容れる。でも、こだわる。
・言うまでもないことですが、海外の国々や地域は、それぞれ違う地理条件、歴史、文化を経て現在があり、そこから生じる価値観は、当然のこと我々の価値観とは違っています。
国境は占領国の事情で後付けで決まった国も多いですから、同じ国の中に違う価値観をもつ国民が混在し多様性に富んだ国もあります。

・「その国を良く知る。」の項で述べた通り、違いを理解してまず受け容れることです。こちらが理解し受け入れれば、相手にも許容を求めやすくなります。 事業性の調査、準備と着手、開始時の初動など、仕事が進まないと何も生まれません。受け容れて進みましょう。

・仕事を進めていくと、自分が描いていたビジネス像と合致しないことも生まれてきます。 そもそも自分はどんなビジネスをしたくてこの地にいるのか、このビジネス像が生まれた背景には、日本という国が、あなたの所属する企業が、あるいはあなた自身がもっている 「強み」があるはずです。諦めずこだわって追及して欲しいと思います。
ビジネス像と実際の仕事の何が合致しないのか、軌道修正や修復は何が可能で何が不可能か、緻密に情報収集・分析・実行を行って、見極めることをおすすめします。軌道修正や修復が困難であれば、企業として、あるいはあなた個人として事業から撤退しその国を離れる、これも一つの決断になります。

[Small Story]
2011年より数年にわたり、情報検索(不動産等仲介業)・EC・インターネット広告・懸賞サイト・人材派遣など日本のインターネットビジネスの有力企業が相次いでインドネシアに進出しました。人口規模、スマホの総台数、島々に分割される広範な国土と将来性を見込める要素は十分にあり、それぞれ自社の強みを発揮できると踏んで進出した訳ですが、加入者が思ったより増えない、広告収入を得るまでに時間がかかる、日本人数人でも運営経費はかさむという事態に早々に直面しました。筆者が深く付き合っていた6社のうち、3社はネット運営にこだわらず、いわばアナログな業務に特化し成功をおさめましたが、中核となった日本人の何人かは自身の存在理由を問い現地を去りました。また1社はインドネシアより撤退し、周辺地域にもとよりあった事務所にその業務を統合しました。進出から2年経過した時点での結論でした。

5.早いうちから日本側に理解者・協力者をつくっておく。
・赴任前・赴任時、事務所の規模・場所・価格帯、住居の規模・場所・価格帯、社用・私用兼用の車両の保有(国によってはドライバーの雇用含む)の可否など、安全・安定した環境を維持するために決めなければならないことが多くあります。安全・安定度が高いほど係る費用も高くなりますので、どこかで妥協点を見出さなければいけません。
事業を開始した後も、事業拡張のための増資・人的増員・先行投資実施の方針決定、大型案件の採算性や実施計画の決定、事業が立ち行かなくなった際の金銭的てこ入れ・人事異動あるいは撤退などの方針決定、災害や社会不安時の退避の時期・期間の決定など、重要な決断に迫られる場面が訪れます。
赴任時の環境の決定、事業開始後の重要な決定、いずれの場合もあなたが日本の企業からの派遣であれば当然日本側に決裁を仰がねばなりません。あなたが代表者であっても日本にいる投資家・事業パートナーなど誰かしらのStakeholderの了解を取り付ける必要があるでしょう。

・通常の業務に関する選択・決定は現地側が一番わかっていて当り前なので(あなたに経験値・実績があり、日本側もその評価の累積があるので)その選択・決定にまっこうから異議をとなえる人は少ないと思います。
問題となるのは、まず、あなたに経験値・実績もなく日本側の評価も累積されていない時期の決定です。何も判断材料が無い、そんなときはかける費用は低めに設定されるでしょう。次に、事業継続・会社存続のための大きな決定をするときです。大きな判断の際には現地側固有の事情や現場の事業遂行者の思いなど、日本側には簡単には理解されず顧みられないのが当り前と思った方が良いのです。

・上記に備え、事が始まる前に、自分の赴く国、遂行する事業、主だった関係者など理解してくれる人をつくっておきましょう。赴任前に同行させて「プロ○○国、○○国ファン」にしてしまうのが一番の方法です。それでもあなたの意に沿わない決定が成されることもあるでしょうが、理解されていれば妥協できる範囲の決定になる可能性が高くなりますので。