改正土地所有法制(その1)

2022.05.20

法的支援

東日本大震災後の復興事業において事業対象地内に所有者不明土地が存在することが大きな障害となりましたが、このような所有者不明土地は410万ヘクタール(全国の国土の20%、九州全土の面積以上)を占め、2040年には720万ヘクタール(北海道全土の面積に迫る水準)まで増加するおそれがあると報告されています。そこで、所有者不明土地問題の発生予防と所有者不明土地の利用促進のため、民法及び不動産登記法が改正されたほか、土地所有権の国庫への帰属を認める制度(相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律)が創設されました。以下では民法に限定して改正内容を解説します。施行日は2023年4月1日です。

1.相隣関係
①隣地使用権 ②竹木の枝の切除等 ③設備設置権及び設備使用権
2.共有等
①共有物を使用する共有者と他の共有者との関係 ②共有物の変更 ③共有物の管理 ④裁判による共有物の分割 ⑤相続財産に属する共有物の分割の特則 ⑥所在等不明共有者の持分の譲渡
3.所有者不明土地建物・管理不全土地建物の管理命令
①所有者不明土地管理命令 ②所有者不明建物管理命令 ③管理不全土地管理命令 ④管理不全建物管理命令
4.相続等
①相続財産等の管理 ②相続を放棄した者による管理 ③不在者財産管理制度及び相続財産管理制度における供託等及び取消 ④相続財産の清算 ⑤遺産分割に関する見直し

1.相隣関係
①隣地使用権(209条)
・改正前は境界又はその付近において障壁・建物を築造・修繕するため必要な範囲で隣地の使用を請求できるとされていました。改正後は、「使用を請求できる」から「使用することができる」と使用権であることが明確になりました。また、使用目的は、①障壁・建物「その他の工作物」の築造・「収去」・修繕、②境界標の調査又は境界に関する測量、③233条3項による枝の切取りと拡大されました。住居については、承諾(裁判手続で承諾に代わる判決は不可)を得なければ立ち入ることができないことには変わりはありません(209条1項但書)。なお、隣地使用権の主体は、土地所有者及び地上権者(民法267条)のほか、土地賃借人にも267条を類推適用すべきとする有力説及び裁判例があります。
・隣地使用の日時、場所及び方法は隣地所有者及び隣地使用者のために損害が最も少ないものを選ばなければならず(209条2項)、隣地を使用する者は予め隣地使用の目的、日時、場所及び方法を隣地所有者及び隣地使用者に通知しなければなりません(209条3項)。但し、事前の通知が困難な場合は使用開始後遅滞なく通知することでも足ります(同項但書)。
・隣地使用により生じた損害の補償(及び使用料相当額の償還)を請求できる主体が隣地所有者及び隣地使用者であることが明確になりました(209条4項)。
②竹木の枝の切除等(233条)
・改正前は「隣地の竹木の枝が境界線を越えるときはその竹木の所有者にその枝を切除させることができる」とされていましたが、①催告後相当期間内に竹木所有者が切除しない場合、②竹木所有者又はその所在を知ることができない場合及び③急迫の事情がある場合は、土地所有者が自ら枝を切除できることになりました(233条3項)。
・竹木が数人の共有に属する場合は、各共有者が枝を切除できることが明確になりました(233条2項)。
・隣地の竹木の根が境界を越えている場合には土地所有者が自ら根を切除できる点は変わりません(233条4項、改正前2項)。
③設備設置権及び設備使用権(213条の2、213条の3)(新設)
・土地所有者は、他の土地に設備を設置し又は他人が所有する設備を使用しなければ電気・ガス・水道の供給その他これらに類する継続的給付を受けることができない場合は、継続的給付を受けるために必要な範囲で、他の土地に設備を設置し又は他人が所有する設備を使用することができます(213条の2第1項)。
・設備の設置又は使用の場所及び方法は、他の土地又は他人の所有する設備のために損害が最も少ないものを選ばなければならず(213条の2第2項)、設備を設置又は使用する者は予めその目的、場所及び方法を他の土地の所有者又は設備の所有者及び他の土地の使用者に通知しなければなりません(213条の2第3項)。通知の相手方の所在が不明であっても事前通知が必要です。
・設備を設置又は使用する者は、設備の設置又は使用のために当該土地又は当該設備のある土地を使用できますが、隣地使用に関する209条(1項但書及び2項ないし4項)が準用されます。
・設備設置者は他の土地の損害につき、設備使用者は設備の使用を開始するために生じた損害につき、それぞれ償金を支払わなければなりません(213条の2第5項、6項)。
・分割によって他の土地に設備を設置しなければ継続的給付を受けられない土地が生じた場合は、当該土地の所有者は、継続的給付を受けるため、他の分割者の所有地のみに設備を設置することができ、他の土地に対する償金を支払うことを要しません(213条の3第1項)。土地の所有者がその土地の一部を譲渡した場合も同様です(同条2項)。