経営者が押さえておくべき最近の法律改正(2022年施行分)(その5)

2022.05.6

法的支援

経営者として押さえておくべきと思われる2022年に施行される予定の改正法をまとめました。本文中の条文番号は各法律の条文を示しています。
目次
1.電子帳簿保存法          7.女性活躍推進法
2.著作権法             8.民法
3.特許法              9.宅地建物取引業法(以上前号まで)
4.個人情報の保護に関する法     10.公益通報者保護法
5.育児・介護休業法         11.厚生年金保険法・健康保険法 
6.労働施策総合推進法        12.プロバイダ責任制限法(以上本号)
                   13.特定商取引法

10.公益通報者保護法(2022年6月1日施行)
① 公益通報の範囲の拡大
公益通報の主体に労働者・派遣労働者等のほか通報日の前1年以内に労働者・派遣労働者等であった者及び役員が追加され(2条1項1号、同条2項4号)、通報対象事実に刑事罰対象行為のほか過料対象行為と同法違反行為が追加され(2条3項1号)、通報先に監督権限のある行政機関があらかじめ定めた者(外部委託先)が追加されました(2条1項柱書)。
②公益通報者保護の拡充
2号通報(監督権限ある行政機関に対する公益通報)及び3号通報(通報対象事実を通報することがその発生又は被害拡大を防止するために必要と認められる者(メディア等の第三者)に対する公益通報)の要件が緩和され(3条2号、3号ハ、へ)、退職者・役員に対する公益通報を理由とする不利益取扱い(退職者に対する退職金の不支給、役員に対する報酬減額等)の禁止が追加されました(5条1項及び3項、6条、8条4項)、役員は法6条に定める要件を満たす公益通報を理由とする役員の解任によって生じた損害の賠償を事業者に請求できるものとされ、事業者は公益通報(3条・6条に定めるもの)による事業者の損害の賠償を公益通報者に請求できないものとされました(7条)。
③事業者・行政機関の措置の拡充
事業者は、公益通報(法3条1号及び6条1号)を受け、通報対象事実の調査を行い、その是正に必要な措置を取る業務に従事する者(公益通報対応業務従事者)を定め、公益通報(3条1号及び6条1号)に応じ適切に対応するために必要な体制の整備その他の措置をとらなければならないものとされました(11条、15条、16条、22条)。但し、常時使用する労働者数が300人以下の事業者については努力義務とされています。
上記義務の履行は、内閣総理大臣(消費者庁長官に委任)による報告徴求、助言、指導、勧告の対象となります(法15条)。勧告に違反した場合(常時使用労働者300人超の場合)は公表の対象となり(法16条)、報告に応ぜず又は虚偽の報告をした場合は20万円以下の過料の対象となります(法22条)。
④ 公益通報対応業務従事者の義務(法12条)
公益通報対応業務従事者(及び公益通報対応業務従事者であった者)は、正当理由がなければ、当該業務に関して知り得た事項で公益通報者を特定させるものを漏えいすることが禁止されます。違反は30万円以下の罰金の対象となります(法21条)。

11.厚生年金保険法・健康保険法(2022年10月1日施行)
被保険者(短時間労働者を除く)の総数が常時「100人」を超える事業所で働くパート・アルバイト等の短時間労働者のうち、①週の所定労働時間が20時間以上であり、②雇用期間が1年以上見込まれ、③賃金の月額が88,000円以上であり、④学生でない者は、健康保険・厚生年金保険の被保険者となります。

12.特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(「プロバイダ責任制限法」)(2022年10月27日までに施行予定)
プロバイダ責任制限法は、誹謗中傷等の投稿が行われた際の対抗手段として、被害者がプロバイダ(ウェブサイト管理者・インターネット接続業者)に対して、投稿者の情報の開示を求める「発信者情報開示請求」を認めていますが、これまでは、発信者の特定のため、一般的に、➀コンテンツプロバイダへの仮処分の申立て、➁アクセスプロバイダへの訴訟提起という2回の裁判手続が必要でした。今回の改正により、発信者情報の開示手続を、簡易かつ迅速に行うことができるように、発信者情報の開示請求を1つの手続で行うことを可能とする、新たな裁判手続(非訟手続)が創設されました(8条、9条、10条、15条1項1号、2号、16条)。
また、開示請求できる発信者情報の範囲が見直され、ログイン型サービス(ユーザーIDやパスワード等の必要事項を入力してアカウントを作成し、その後当該ユーザーIDやパスワードを入力することによって自らのアカウントにログインした状態で様々な投稿を行うことができるもの)におけるログイン時情報(ログイン時のIPアドレスやタイムスタンプ)も一定の要件の下に対象となることが明確になりました(5条1項柱書、3号)。