新型コロナ時代に生き抜く知恵 ~過去の歴史の教訓から学ぶ~(完)

2022.01.31

企業支援

1.大規模感染症が起こる理由
① 自然環境の変化
② 環境破壊
③ 人口増加と都市化
④ グローバル化
⑤ 栄養・衛生状態
2.大規模感染症の社会的インパクト
① パニックによる差別やデマが拡散しやすい
② 経済活動を弱め、既存の社会的枠組みの見直しがおきやすい(以上、前号まで)
③ グローバル化と大規模感染症(本号)

2.大規模感染症の社会的インパクト
③ グローバル化と大規模感染症
WHOによれば、最初の新型コロナウィルスの情報は、2019年12月に中国の国家衛生健康委員会からWHO中国事務所に報告がなされています。すぐに武漢市がロックダウンされ、瞬く間に欧州に拡大していきましたが、その展開の拠点となったのはイタリアでした。この感染経路パターンは、中世の黒死病の広がり方と大変酷似しています。グローバル化の歴史の中で、中国とイタリアは、世界志向の強い国民性が影響してか、時代を超えてグローバルな関係性を示しており大変興味深い事実です。

グローバル化の最近の動向を確認してみます。グローバル化の進展は、日本をはじめとして西欧やアメリカなど民主主義の先進国では、安価な労働力を持つ海外の発展途上国に生産拠点の移転や国内の労働流動性を高めたことで国内の中産所得層が瓦解してしまい、貧富の二極化が進んで政治の不安定化を招きました。一方で中国やトルコなど元々中央集権的な政治体質をもつ新興国は、グローバル化の恩恵で経済的成功を収めることで、自国の運営に自信を深め、権威主義的な色彩を強めていきました。

こうしたグローバル化の歪みが露呈し始めたところに、新型コロナは直撃したわけです。新型コロナへの対応をみてみると、中国の死者数は5千人程度とその人口規模から考えれば圧倒的に低くワクチン接種率も世界最高水準で一人勝ちのような状況です。経済面でも、2021年のGDP成長率は+8.0%の見通し(IMF最新予測値)であり、一早く復興をしているように見えます。一方、民主主義の代表を任ずる米国の新型コロナの死者は60万人余りでワクチン接種率も依然60%未満です。中国のような中央集権体制だと、個人の権利よりも公衆衛生優先の強硬策を採ることができるのに対し、民主主義体制では、感染対策を講じるにも個人の自由や権利に十分配慮するために、合意形成に時間と手間がかかるからという理屈です。従って大規模な感染症といった非常事態では中央集権的な国家運営のほうがが上手く機能し、民主主義的な運営はプロセスに無駄が多い、という考えが新興国や途上国に横行して、グローバル化で進行していた中央集権の権威主義的運営を、より一層強めるような傾向が生まれているように思います。また、民主主義の先進国においても、行き過ぎたグローバル化への反動として、「自国第一主義」など中央集権的な政策を取りつつあることです。

民主主義の恩恵にあずかる我々日本人は、自由な民主主義的価値観が広く世界でも優位に伝播していくのは当然だろうと考えますが、状況は真逆です。2019年にスウェーデンの調査機関から発表された報告書では、権威主義的な国家の数のほうが、民主主義的な国家の数を上回っているというものでした。事実、2019年に国連で議論されたウィグル族に対する弾圧問題では、懸念を示したのは22か国だったのに対して中国支持に回ったのは37か国となりました。2020年6月の国連の人権委員会では、中国の香港国家安全維持法に強い懸念を示すと表明した国数が27だったのに対し、中国への支持を表明した国数は倍の53という結果でした。一帯一路政策の恩恵にあずかる国々への中国の説得工作が奏功したのは間違いありませんが、我々がよく耳にする「国際社会からの批判」という国際社会の場では、今や民主主義的意見は少数派、という事実にもっと注意を払う必要があると思います。

グローバルの脅威にさらされる中で、両方の陣営とも「強い国家をつくり国民に繫栄と安心安全を付与していく」ことを強くナショナリズムに訴え始めています。具体的な進めかたはもちろん異なるものの、双方の理念が近似してきて境目がぼやけつつあります。この曖昧さこそが、民主主義体制の危機といわれる真因だと思われます。
確かに短期的な対応としては、権威主義的対応のほうが適切な施策が行われた場合は効率的なのは事実でしょう。しかしながら、中央の強制力を利かせるために報道の自由や基本的な人権がないがしろになり、もっと重要なことは、もしその施策が間違っていてもその誤謬を認めることが難しく指導者や政策を柔軟に変更する仕組みを持たないこと、つまり自己修正能力に欠けていることです。
パンデミックという危機に直面する今こそ、民主主義体制を維持してより良いものにする試金石と考え、グローバル化の影の部分を改善し、短期的な視点のみならず中長期の視点をしっかり持って、今の非常事態に対し能動的に明るい展望をもって対処していくべきだと思います。                             
以   上