新型コロナ時代に生き抜く知恵 ~過去の歴史の教訓から学ぶ~(その5)

2022.01.24

企業支援

1.大規模感染症が起こる理由
① 自然環境の変化
② 環境破壊
③ 人口増加と都市化
④ グローバル化
⑤ 栄養・衛生状態
2.大規模感染症の社会的インパクト
① パニックによる差別やデマが拡散しやすい(以上、前号まで)
② 経済活動を弱め、既存の社会的枠組みの見直しがおきやすい(本号)
③ グローバル化と大規模感染症

2.大規模感染症の社会的インパクト
大規模な感染症が起きると、人はどういう行動に出るのでしょうか。社会はどう変化していくのでしょうか。過去の事例をみながら現在起きていることを検討してみたいと思います。

② 経済活動を弱め、既存の社会的枠組みの見直しがおきやすい
ペストがそれ自体で国を滅ぼすわけではありませんが、大量の死者を出して十分な対策を講じることが難しく国が荒廃してしまうため、歴史的に見れば、時の権力体制を衰退させる加速要因になっています。中世の黒死病を例にとると、キリスト教会が各地で祈祷儀式をしても何ら効果がなく教会関係者にも多数の死者がでたため、すでに揺らぎ始めていた教会の権威はさらに地に落ちてしまいます。冒頭に触れました骸骨が踊る「死の舞踏」絵画にも、身分や貧富に関係なく死は誰にも訪れる「メメントモリ」というメッセージがテーマとして描かれています。国レベルで見ても同様に、勢いに陰りが出ていたモンゴル帝国の各藩国は、連続して起きた大天災や黒死病による飢饉や疫病のため、ますます減衰しゆっくりと解体していき歴史から消えていきます。欧州でも、その後に王政が強化されるかどうかは各国の事情によって異なりますが、共通して言えることは、大量の死者が発生したことで、労働力不足がおこり生産性が低下しました。そして食物生産量が落ちて飢饉が起き、西ヨーロッパの農村では荘園制の持続が困難となります。その結果、農奴はその身分を開放され、都市部では労働者の賃金高騰を招き、その後の社会構造が大きく変革していきます。過去の歴史が示すことは、黒死病といった大規模感染症はそれ自体が社会変革を起こすというより、既にその兆候が見えている社会構造の変化を一層速める触媒的な役割を果たすというものです。

スペイン風邪の時には世界経済の低迷が起きています。第一次世界大戦中であったため、人流物流が国際間で活発に行われ、劣悪な衛生環境下で、膨大な感染者と死者を記録しました。しかも、こうした被害者はまさしく経済活動の担い手であったため、労働供給や消費活動の大きな低下を招き、各国のGNPを大きく引き下げています。また最近の研究では、成年男性の働き手の喪失をカバーするために、女性や子供が仕事に従事せざるを得なくなり貧困世帯率を急上昇させたという調査が出ています。戦争そのものもさることながら、スペイン風邪が経済活動の停滞に大きな影響を与えたわけです。第二次世界大戦の遠因は第一次世界大戦の敗戦処理策にあると言われますが、スペイン風邪が経済回復を遅らせたことも大きく影響をしていることがわかります。

現在の新型コロナも、おそらく、既に兆候が見られる新しい変化を増長させていく、そして社会生活の弱い部分に甚大な影響を与えていくものと思います。例えば、経済活動への影響は深刻です。様々な経済活動の制約の影響で失業率が、サービスセクターを中心に拡大し、企業側もつなぎの無利子・無担保融資の下支えで倒産件数こそまだ目立つものではありませんが、負債額は30兆円を超し、今後の返済が大きな社会課題となるのは必然です。また非正規労働者の失業も大きな問題であり、財政支出に限りがある中で政府は難しい舵取りに迫られています。産業構造の変換に加速がつくとともに、それによりさらに労働の流動性は高まっていくのでしょう。

もう一つ、等閑視できない課題として、教育への影響です。過去の事例で見ますとスペイン風邪流行の時に幼少期年少期だった人たちは、他の年代の人たちに比べて教育年数や学歴面で平均的に低いというイタリアの研究結果があります。現在、教育の現場では、感染拡大防止策としてITを活用したリモート教育の導入が積極的に行われていますが、影響はどうなるのでしょうか。考えられる肯定的な側面としては、遠隔地に住む子供たちに都会に住む子供たちと同じレベルの教育機会の恩恵があることや、子供たちのITリテラシー能力は、これまでの世代よりも一段と高いものになり、次の経済成長の土台を強くしていくことは間違いありません。一方で懸念されることは、面着による集団行動の機会が減る中で、相手の気持ちを読み取る対人折衝能力など情緒面での発育が遅れるという懸念の声が、教育に携わる人たちから出ていることです。テレワークで頑張っている皆さんと同様、新型コロナの功罪に直面し奮闘努力しているお子さんたちにも激励のエールを送りたいと思います。