新型コロナ時代に生き抜く知恵 ~過去の歴史の教訓から学ぶ~(その4)

2022.01.17

企業支援

1.大規模感染症が起こる理由
① 自然環境の変化
② 環境破壊
③ 人口増加と都市化
④ グローバル化
⑤ 栄養・衛生状態(以上、前号まで)
2.大規模感染症の社会的インパクト
① パニックによる差別やデマが拡散しやすい(以上、本号)
② 経済活動を弱め、既存の社会的枠組みの見直しがおきやすい
③ グローバル化と大規模感染症

2.大規模感染症の社会的インパクト
大規模な感染症が起きると、人はどういう行動に出るのでしょうか。社会はどう変化していくのでしょうか。過去の事例をみながら現在起きていることを検討してみたいと思います。

① パニックによる差別やデマが拡散しやすい
大規模な感染症は、大量の被害者を生み出すために、デマや差別を生みやすい状況をつくります。大量に知人や仲間が死んでパニック状態になると、人はどこかの誰かに責任を求めたい衝動にかられて集団ヒステリーともいえるような行動を起こしやすいのです。
中世の黒死病で莫大な死者が出始めた時の社会の反応として特徴的な一つに、ユダヤ人の仕業による陰謀説が起きました。元々ユダヤ人に対して偏見がある中で、「ユダヤ人が毒を井戸に入れた」というデマ情報が飛び交ったため、ユダヤ人への迫害や残虐な殺人行為が、欧州各地で起きています。これを、中世という迷信や無知で偏見に富んだ人達が暮らす暗黒な時代だったから、と考えるのは早計です。実際、現代でも今回の新型コロナウィルス騒ぎの中で、全米各地や欧州でアジア系市民が襲われるヘイトクライム事件が頻発して起きています。
差別格差の問題をもっと身近な例で考えてみますと、自分の社会的ポジションを利用して何かと言い訳をつけながら、我先にワクチン接種を通常よりも早く実施した人たちがあちこちで現れました。まさしく我欲の嫌らしさを見た思いになった方も多いと思います。ここまで露骨ではありませんが、我事として少し立ち止まって考えることがあります。
ワクチン接種は先進国では70%近くの水準まで到達し、さらに3度目のブースト接種が行われようとしています。しかしながら世界のワクチン平均接種率は38%程度(10月末現在)に留まり、多くの途上国の人たちが一度もワクチン接種を受けていません。日本人として先進国に生まれた恩恵を感じると同時に、途上国の人に何かしら申し訳なさを思いながらも、彼らの状況にはあまり意識を向けずに暮らします。一方で理知的に考えれば、新型コロナウィルスが、自らの生き残りのためにどんどん変異するため、結局は回りまわって自分が危ういリスクに晒されることになります。頭ではわかっていても、人はリスクが身近に迫ると、どうしても視野が狭くなり、目前の自分の利益を優先して行動するのでしょう。
日本政府が途上国向けにワクチン支援をしていますが、ヒューマニズム的な情緒的視点からも合理的な理性的視点からも理にかなった行動です。我々個人のレベルでも、自分が弱く不運な状況下にあるときにこそ、普段以上に冷静に理知的な態度で、全体利益を俯瞰した上で優しい配慮をもって行動すべきだと痛感します。