新型コロナ時代に生き抜く知恵 ~過去の歴史の教訓から学ぶ~(その3)

2022.01.4

企業支援

1.大規模感染症が起こる理由
① 自然環境の変化
② 環境破壊
③ 人口増加と都市化(以上、前号まで)
④ グローバル化
⑤ 栄養・衛生状態(以上、本号)
2.大規模感染症の社会的インパクト
① パニックによる差別やデマが拡散しやすい
② 経済活動を弱め、既存の社会的枠組みの見直しがおきやすい
③ グローバル化と大規模感染症

④グローバル化
考えればすごく当たり前の話ですが、ローカルな感染症がパンデミックになる下地として、活発な人的交流を可能とするグローバル世界が生まれていることが前提となります。
世界を震撼させた大きな感染症として、6世紀にビザンチン帝国全域に蔓延し2500万人が死亡したという「ユスティニアヌスのペスト」、14世紀の欧州・北アフリカ・中央アジア・中国と広範囲にわたり、欧州の人口の3分の1の人命を奪った「黒死病(ペスト)」、20世紀に入り、米国と欧州を中心に5千万人(一説では1億人)以上の死者を出した「スペイン風邪」、などグローバルに広がった感染症は、歴史的に何度も膨大な数の死者をもたらしています。
ここでは、特に14世紀の黒死病のグローバルな広がりかたについて話を進めます。
ペスト菌は、元々中国の雲南省あたりのローカルな伝染病であり、流行条件に合致した際に地域的流行(エピデミック)を引き起こしていたとされています。
しかしながら、モンゴルが1253年に雲南を陥落させて帝国の一部にしたことで、ペスト菌はモンゴル帝国全土に広がったと言われています。そして、モンゴルが世界史上最大規模の帝国をつくりユーラシア大陸の端から端まであまねく交通圏を形成したことが、ペストの世界的流行(パンデミック)を引き起こしたわけです。
まずユーラシア大陸東端で、1334年に中国杭州でペストらしき謎の感染症が流行り500万人が死亡したという記録があります。ユーラシア大陸中部や南西部でも、1340年代には
イランやロシアやエジプトで甚大な数の死者を出しています。そして西端のクリミア半島でのジェノバ軍との戦闘で、ジェノバ市民がペスト菌を持ち帰り、そこから地中海貿易の湾岸都市を中心に西ヨーロッパ全体に広がりました。1347年から1351年にかけて黒死病は欧州全体に波及し瞬く間に拡大し、2500万人もの人命を奪ったといわれています。
当時を知る興味深い話によれば、クリミア半島のジェノバ植民都市カッファでジェノバ軍とモンゴル軍が対峙していた際、モンゴル軍が黒死病で死んだ兵士を城壁内に投げ入れたため、ジェノバ軍が慌てて本国に帰還したことで、地中海貿易の中心都市であったジェノバから、各国の湾岸主要都市に一挙に感染は拡大してしまったという通説があります。
そうした光景も実際にあったかもしれませんが、交戦中にネズミが往来したことが真因だろうと言われています。

⑤栄養・衛生状態
感染病への耐性には、栄養面も影響しています。十分なカロリー摂取と健康管理ができている人のほうが、そうでない人に比べて当然、免疫力が勝っています。体力が落ち免疫力が落ちるタイミングに起きるヘルペスウィルスなどがその具体的な事例となります。
公共衛生の整備も重要な視点となります。黒死病が猛威を振るう14世紀のベネツィアでは、船内に感染者がいないことを確認するために、入港前の40日間は近くの小島に停泊させる法律をつくりました。この40を意味する「quarantena」が後に検疫を意味する「quarantine」の語源になった話は有名です。大規模な感染症対策の一つとして検疫制度という公衆衛生の重要性を学んだことになります。
水や食物を介して感染する細菌性下痢症は、上下水道など生活インフラの整備された先進国では見られませんが、途上国の劣悪な環境では、コレラ菌やサルモネラ菌の感染症が報告されています。また医療施設の充実は言を待ちません。上下水道の整備といったハード面のみならず、感染症に対する国民の一般的知識や医療体制などソフト面の充実も重要です。

以上感染症の起こる理由を見てきましたが、大規模な感染症はいつ起きても不思議ではないこと、また一旦起きると極めて大流行しやすい状況に、現代に生きる我々が、極めて脆弱な形で晒されているかをご理解されたと思います。
終息の可能性については、これまでの感染症の歴史から学べることは、人の行動抑制と集団免疫、感染ウィルスの弱体化、さらに科学的知見の向上が、終息に効果を上げてきたということです。ウィルスは生き残りをかけて変異していきます。ときには宿主を全滅させることもありますが、戦略としては弱体化(というより適応化)することで、宿主との共生の道を選ぶのでしょう。人類のほうも、行動抑制をしながら変異に見合ったスピードで集団免疫をつくることに努力していきます。この相互作用の中で終息時期が決まってくるというのが、大方の見方のようです。それでは、こうした大規模感染症の歴史上で起きた社会的影響から、現代社会にも通じて、我々が学ぶべきものがないか考えてみましょう。