新型コロナ時代に生き抜く知恵 ~過去の歴史の教訓から学ぶ~(その1)

2021.12.17

企業支援

新型コロナ時代に生き抜く知恵 ~過去の歴史の教訓から学ぶ~(その1)

欧州に10年ほど住んで各地を訪れる機会がありましたが、歴史上でたびたび起きた黒死病の痕跡をまざまざと感じる場所が沢山あります。
ウィーン旧市街グラーベン通りにひときわ目を引く金色のペスト終焉の記念塔、各国の様々な礼拝堂に飾ってある骸骨(死)をテーマにした異様な「死の舞踏」の絵画、9割の市民が亡くなり時の歩みを止めてしまったようなシエナの中世的佇まいなど、いずれの展示物も風景も強い印象を与えて、何やら不思議な感覚を抱かせます。
こうした奇異なものを目の当たりにしますと、欧州人がこれまで幾度となく感染症による深刻で悲惨な影響を経験しながらも生き延びて歴史の厚みをつくってきたことに、ひとは自然と思いを馳せるからでしょう。

新型コロナとの戦いも約2年が経ち、医療関係者のご苦労には頭が下がる思いをしながら、次の第六波が起きて、またぞろ様々な社会制約を受けるのではと危惧している、というのが世間の実情でしょう。今の大きな関心事は、ワクチン接種で集団免疫を獲得すれば新型コロナは本当に終息するのか、with/afterコロナ時代にどう対応していくべきか、あたりではないでしょうか。
こうした根本的な問いへの答えを探すため、過去の大規模な感染症事例を例にあげながら、何かヒントになることがないか、少し考えを巡らせることで、より良く生きるための知恵を探っていきたいと思います。

本稿では、以下について検討します。
1.大規模感染症が起こる理由
① 自然環境の変化(以上、本号)
② 環境破壊
③ 人口増加と都市化
④ グローバル化
⑤ 栄養・衛生状態
2.大規模感染症の社会的インパクト
① パニックによる差別やデマが拡散しやすい
② 経済活動を弱め、既存の社会的枠組みの見直しがおきやすい
③ グローバル化と大規模感染症

1.大規模感染症が起こる理由
いつ頃どうやって終息するのかと考える前に、大規模な感染症はどうして起こり拡散していくのか、をみていきたいと思います。感染症が、ローカルな地域に留まらず全体に拡散していく理由には諸説ありますが、現在一般的に認知されている意見をまとめますと、①自然環境の変化(温暖化と寒冷化)、②環境破壊(森林開発や人為的な操作)、③都市化(人口の増加と集中)、④グローバル化(世界的な人流物流の加速)、⑤栄養・衛生状態(体調管理、公衆衛生、医療知識)、の5つの要因が感染症の蔓延化やパンデミックを引き起こす理由とみられています。具体的に、それぞれ実例をみていきます。

① 自然環境の変化
インフルエンザの流行は、年によって流行る年とそうではない年があります。何故こうしたことが起きるのでしょう。これには、地球の温度が温暖化と寒冷化を不定期的に繰り返す、世界的な気候変動が原因で、感染症の拡大に影響を与えているからという説があります。
例えば黒死病ですが、大きな気候変動がペスト感染拡大の遠因ではないかと言われています。元々ペスト菌は、中央アジアの草原地帯に広く生息する小型げっ歯類(モーマットやネズミなど)に寄生するノミに普遍的に存在しており、今も完全な根絶はされていません。
寒くなれば、草原面積の縮小や作物の冷害不作などで北方での生活は大変厳しいものとなり、巨視的に見れば野生動物も人も暖かいところに移動することになります。そして、一定の条件下でノミの体内で増殖したペスト菌は、ネズミとともに南下して人口の多い地域に移動することで、人に菌を蔓延させるというものです。これがペストの感染経路となります。

寒さだけではありません。マラリアやデング熱など熱帯病は、地球の温暖化でこれまで存在が確認されなかった地域にも広がっています。例えば、デング熱は蚊が媒介するウィルス性の熱性・発疹性疾患であり、これまで北緯30度から南緯30度にかけての熱帯・亜熱帯地域100か国以上で報告されています。しかしながら、温暖化の影響でデング熱を運ぶ蚊の生息地域の北限が広がるにつれ、将来的には国内でも流行する危険性も指摘されています。

自然の四季変化でも、感染症は季節的に到来します。冬に流行るインフルエンザウィルスは、春から秋にかけては北の涼しい地域の水源近くで生息し、渡り鳥が繁殖地と越冬地の長い距離を移動することで、世界中に糞に混じってばらまかれます。宿主である渡り鳥は長い年月の中で共生する術を獲得していますが、豚や鶏などの家畜は免疫力がなく、こうした家畜を介して人の口に運ばれる経路をたどります。