日本型雇用制度はどう変わるか?(完)

2021.12.6

企業支援

最終回です。

(2)労働人口構成
子育て環境の整備が進んだことやコロナ禍でのテレワークの普及もあり、結婚・出産を機に退職した女性労働者の労働市場への復帰が加速しつつあり、かつて女性労働者数でみられたM字型カーブ(30代、40代の女性労働者の減少)は緩やかになりつつあります。正社員として復職する女性はまだ多くないように思われますが、非正規労働者の労働条件と正社員の労働条件との均衡・均等(*)や有期雇用労働者の無期雇用契約への転換権(労働契約法18条)が法制されたことにより、企業は、これまで正社員の労働人口ピラミッドの枠外から終身雇用制度を支えた女性労働者を無視できなくなりつつあります。夫婦が分業すべきという夫婦観も崩れつつあります。なお、定年後の継続雇用制度(**)が一般的となりつつあり、高齢者は、正社員の労働人口ピラミッドの枠外にとどまるのが通例とは思われるものの、労働力人口の一翼を担うようになっています。
(*)短時間労働者(パート・アルバイト等)・有期雇用労働者の待遇と通常の労働者の待遇との間で、①業務の内容及び責任の程度(「職務の内容」)、②職務の内容及び配置の変更の範囲並びに③その他の事情のうち、当該待遇の性質及び目的に照らして適切なものを考慮して不合理と認められる相違を設けることが禁止されます(「均衡待遇」)。また、職務の内容が通常の労働者と同一の短時間労働者・有期雇用労働者について、雇用の全期間を通じて職務の内容及び配置が通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されることが見込まれる場合は、短時間労働者・有期雇用労働者であることを理由とする待遇の差別的取扱が禁止されます(「均等待遇」)(短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律8条、9条)。
(**)65歳まで。令和3年4月1日以降は努力義務ではあるが選択肢の一つとして70歳まで(高年齢者等の雇用の安定等に関する法律9条、10条の2)。

(3) 労働市場の流動性
有料職業紹介事業は、1997年に民間事業が取り扱える業種が大幅に拡大され、その後の職業安定法改正により規制緩和が進み、労働市場の流動性が格段に高まりました。また、確定拠出年金法が2001年から施行され、転職後も確定拠出年金の年金資産を移管できる(ポータブル)ようになりました。転職環境は大きく改善されたといえます。

4.終身雇用制度の今後
終身雇用制度が今後どうなるかについての定説はありません。
解雇を厳しく制限する現在の法制度が維持されるという前提で考えれば、企業としては、基本的には終身雇用制度を維持しつつ、変容する労働人口ピラミッドに対応する形で人事制度を再構築するほかないように思われます。非正規労働者の労働条件と正社員の労働条件との均衡・均等や有期雇用労働者の無期雇用契約への転換権が法制された(上記3(2))ことにより、終身雇用制度に取り込まれる有期雇用労働者数は今後増加していくと考えられますが、雇用の調整弁としての有期雇用労働者を一定数確保したいという企業のニーズを考えると、今後も一定割合の有期雇用労働者が終身雇用制度の枠外で残ると思われます。
他方で、従業員としては、長期雇用のメリットを感じている限り自ら転職するは考えにくいですから、こうした従業員が終身雇用制度の枠外に移る可能性は低いと考えられます。これに対し、長期雇用のメリットを感じない従業員は、終身雇用制度の枠外に出ることに抵抗はないと思われます。但し、転職によってよりよい待遇を追求できるのは市場競争力ある高い技能・スキルを有する従業員に限定されるとすると、近い将来に終身雇用制度が根底から揺らぐような事態には至らないように思われます。