使える弁護士の見分け方とは?

2021.11.26

法的支援

私は、弁護士数が500人超の大手法律事務所に30年ちょっと所属していました。毎年数十人の若手弁護士が入所します。「○○高校の1番」「○○大学の1番」「○○賞受賞」等、ピカピカの経歴の若手弁護士ばかりですが、不思議なことに、1年目に無事離陸できる人とそうでない人に分かれます。「離陸」というのは、出された問題をうまく対応することでより高度の問題を出され、それを繰り返すことで経験値や能力がどんどん向上していくという好循環に入ることを意味します。

何が違うのかについて、私は、「問題を見つける能力」の有無ではないかと考えています。ペーパー試験では、最初に問題が設定されていてその問題を解けばいい訳ですが、実務では、問題設定の前段階である「何が問題か」を見つけるところから始まります。ペーパー試験では「何が問題か」が試されないため、それまでのペーパー試験では差がなくても、生の事実を前にしたときにそれを分析して問題の所在を解明できるかどうかで結果が大きく異なってくるという訳です。例えば、山を登るための「Aルート」があるという事実に対して、ほかのルートはどうなっているのか、山の裏側はどうなっているのか、Aルートとほかのルートの違いは何か、といったことを考えるということです。

上記が「事実分析把握能力」であるとすると、もう一つ重要なのが「法的判断能力」です。これは事実に法律を当てはめて正しい法的結論を導く能力を意味します。法律がそのまま当てはまる事実であればいいですが、そうでない場合に、この法律を当てはめるべきか、当てはめた場合の効果はどうなるか、ほかの法律を当てはめる余地はないか、結論の落ち着きはどうか、等を総合的に検討して絶対に間違いのない結論を導く必要があります。上記の山登りの例でいえば、Aルートの途中で二つに道が分かれているときにどちらのルートをどういう理由で選ぶか、別のルートから登ったらどうなるか、最終的にどのルートが安全か、等を検討するということです(例えると却ってわからなくなるということもありますが)。

「事実把握分析能力」と「法的判断能力」は、身につけるために最も時間のかかる能力です。これらを最初から身につけている弁護士もたまにはいますが、多くは仕事を通じて徐々に身につけていきます。この関係で、冒頭に述べた「離陸」の好循環に入ることが重要です。毎回より難しい問題をこなしていけば、みるみる力をつけることになりますが、そうでない場合は、やる気も失せます。

以上のほか、弁護士の基礎能力としては、「注意深さ」「法的調査能力」「表現能力(書面及び口頭)」等も必要ですが、これらはトレーニングにより比較的簡単に向上します。また、依頼者を引きつける弁護士となるための応用能力としては、事務処理能力(時間がなくてもなんとか仕上げる能力)、仕事の完成度、問題解決能力、プレゼン能力、コミュニケーション能力、専門性、稀少性等も重要です。

以上を依頼者の側から見れば、「使える」弁護士かどうかは、最初の会議での対応である程度わかるということになります。例えば、依頼者から説明した事実に対して、背景・周辺事情・関連事実等を確認して全体像を把握し、依頼者の気づかない問題点や確認すべき事実を指摘する弁護士であれば、一応信用してよいのでしょう。

[以上は弁護士のお話ですが、一般の企業でも同様ではないかと推測します。
例えば、依頼者からクレームが来た場合に、謝罪してクレームの直接の原因を取り除くということは誰でもやると思いますが、何故クレームが発生したのか、その究極の原因は何か、解決するためには何を変えるべきか、どのように変えていけばいいのか、等を緻密に検討して改善に結びつけられるかどうかは優秀な社員かどうかの一つの指標となるのではないでしょうか。業種毎に重要な能力は異なり得るので、自社の社員に必要な能力は何かをリストアップして査定等に活かせば、社員としても(査定のフィードバックを通じて)何が重要で自分には何が足りないのか等を自覚することができ、能力向上につなげられると考えます。]