日本型雇用制度はどう変わるか?(その1)

2021.11.22

企業支援

日本の雇用制度の代名詞として「終身雇用制度」(lifetime employment system)という言葉が使われたことがあります。終身雇用制度とは、ざっくり言えば、企業が新卒者を大量採用し教育訓練しキャリア形成を図る長期雇用システムということができるでしょう。1990年代初頭までの日本の大躍進を目の当たりにして、米国で一般的なemployment-at-will(いつでも解雇できる)とは異質な終身雇用制度がその一因ではないか、と日本の終身雇用制度を研究する米国の労働法学者もいました。

1.終身雇用制度の背景
(1)企業のニーズ
終身雇用制度は、日本古来の制度ではなく、戦前は財閥系企業にはみられましたが一般的ではありませんでした。1950年代に日本の経済復興が進み、多くの企業が最新の技術情報を取り入れて成長するために従業員の教育に投資する必要が高まりました。せっかく教育した従業員が退職しては投下資本が無駄になります。そこで、従業員が退職しにくい仕組みとして、年功賃金制度や退職金制度や充実した福利厚生制度が定着していきました。年功賃金制度では、賃金カーブは年齢とともに上昇し、さらに退職直前には急カーブで上昇します。退職金制度でも、退職金額は退職直前になって急激に増額します。そうすることで、定年まで勤め上げることに大きなメリットがあることになります。

(2)労働人口構成
シニア従業員の高額の賃金や退職金を支えるためには、ピラミッド型の労働人口構成(年齢が高くなるにつれて従業員数が減っていくという人口構成)により、多くの若い従業員が安い賃金で働くという構造が重要です。これと関係するのが、伝統的な夫婦観(夫は仕事をして、妻は家庭を守るという役割分担)であり、多くの女性従業員が結婚や出産を機に退職し、その後復職するとしても正社員ではなく非正規社員として復職するのが一般的でした。女性従業員が正社員として復職しにくいのは、伝統的な夫婦観だけでなく、中途採用者や復職者に不利な昇進制度、子育てをしながら働くための保育環境の不備、企業が支払う配偶者手当の存在、配偶者控除制度(*)等も関係していたと考えられます。
(*)納税者本人の所得による制限はあるものの、配偶者の合計所得が38万円未満(令和元年以前)…給与所得のみの場合は収入が103万円未満…であれば納税者本人の給与所得から一定額を控除できる制度。毎年改正されているので、現在は次を参照してください。https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1191.htm

(3)労働市場の流動性
定年まで勤続する人が多かったことの事情としては、労働市場の流動性が乏しかったことも影響しています。強制労働や中間搾取等の弊害を防止するために一般的に労働者供給事業は禁止され、1996年の労働者派遣法施行によりようやく一定業種での労働者派遣事業が合法化されました。また、有料職業紹介事業も1997年までは厳しく制限されていました。転職先を見つける手段が限られていたことも、従業員が定年まで勤続することが一般的であったことの一因といえるでしょう。