カーボンゼロ………それだけでいいの?(その2)

2021.09.27

企業支援

カーボンゼロを実現する手段として、化石燃料からCO₂を排出しないエネルギー源である水素(H₂)、アンモニア(NH₃)等への転換が検討されています。これらを何から取り出すか、これらを運搬するためのエネルギーはどうするか、の課題もありますが、これらは昨今議論されるようになっていますので、ここでは別の視点でアンモニア(NH₃)に絞って考えてみたいと思います。
アンモニア(NH₃)は、水素(H₂)に比べて沸点が高く、低い圧力でも液化するので運搬しやすいこと、またCO₂を排出しない燃料としてそのまま利用できることから注目されています。ところで、京都議定書で削減対象とする温室効果ガスとして、CO₂、メタン(CH₄)とならんで、亜酸化窒素(N₂O)というのがあるのをご存知でしょうか?亜酸化窒素(N₂O)はCO₂の約300倍の温室効果があるといわれている温室効果ガスです。アンモニア(NH₃)が燃焼すると、割合は燃焼条件等によりますが窒素酸化物(NOx…これは公害物質)と亜酸化窒素(N₂O)が発生します。つまり、一般的な燃料(主成分は炭素と水素)の代わりにアンモニア(NH₃)を燃焼させると、CO₂の排出は避けられますが量的には少なくてもCO₂の約300倍の温室効果があるといわれている亜酸化窒素(N₂O)が発生してしまうということです。因みに、窒素酸化物はアンモニア(NH₃)を加えて、窒素(N2)と水(H₂O)に分離するのですが、その際にも量は少ないでしょうが亜酸化窒素(N₂O)が発生します。
菅首相は、2050年に「温室効果ガス」を実質ゼロにすると言いましたので、今はCO₂に限らず「温室効果ガス」を実質ゼロにすることと認識されていますし、実際にアンモニア(NH₃)燃料化に直接かかわっている人たちはアンモニア(NH₃)の燃焼により亜酸化窒素(N₂O)が発生することは当然のこととして、亜酸化窒素(N₂O)の発生を抑える取り組みもしていると思います。しかし、カーボンゼロという言葉が一般に広く浸透していき、時間が経過する過程で、亜酸化窒素(N₂O)の発生は些細なこととして抹殺されてしまい、カーボンゼロという言葉だけが独り歩きして細部が忘れられ、地球温暖化防止という本来の目標に反するとまでいかなくても、温室効果ガス削減の効果を大きく減殺してしまう行動をしてしまう可能性は否定しがたいものがあります。下位の手段の実現を目指すあまり、本来の目標を実現できなくなっては本末転倒です。尚、ビジネスで陥りやすいワナを説明するための題材としてアンモニア(NH₃)を取り上げましたが、アンモニア(NH₃)の燃料化それ自体は温室効果ガス削減に有効な手段であると考えています。勿論、ワナに陥らないために、CO₂削減でなく上位の目的である温室効果ガス削減を念頭に置きながら管理していく必要があります。