経営者が知っておくべき債権法改正(完)

2021.09.6

法的支援

最終回の今回は、以下のポイントについて解説します。

 

16 賃貸借

17 請負

18 寄託

 

16 賃貸借

①賃貸借の敷金(賃料債務等を担保する目的で賃借人が賃貸人に交付する金銭)に関する規定が新設され、敷金の返還時期や返還範囲についてのルールが定められました。

②賃借人は、賃借物に損傷が生じた場合は、賃借人の責めに帰すことができない事由によるものを除き、賃貸借終了時に原状に回復しなければなりませんが、通常の使用・収益による損耗及び経年変化については原状回復義務を負わないことが明文化されました。

③不動産が譲渡された場合は、(1)不動産の賃貸人たる地位がその譲受人に移転すること(対抗力ある賃貸借に限る)、(2)賃貸人たる地位の移転を賃借人に対抗するためには不動産についての所有権移転登記が必要であること、(3)敷金の返還債務及び費用償還債務が不動産の譲受人その他の承継人に承継されることが明文化されました。但し、不動産の譲渡人と譲受人の間で賃貸人たる地位を譲渡人に留保すること及び不動産を譲受人が譲渡人に賃貸(マスターリース)することを合意した場合は、賃貸人たる地位は譲受人に移転しません(賃貸人たる地位はマスターリース終了時に譲受人又はその承継人に移転)。

④賃貸借の存続期間の上限が20年から50年に伸張されました。借地借家法の適用のある建物所有目的の土地賃貸借(原則30年以上)や建物賃貸借については存続期間の上限はないのですが、借地借家法の適用のない賃貸借(例えばゴルフ場敷地の賃貸借)の存続期間は20年を超えることができませんでした。

 

17 請負

①請負の報酬は完成した仕事の結果に支払われるのが原則ですが、注文主の責めに帰すべきでない事由によって仕事を完成できない場合や請負契約が仕事の完成前に解除された場合は、中途の結果のうち可分な部分によって注文主が利益を受けるときは、その利益の割合に応じて報酬を請求できることが明文化されました。なお、注文主の責めに帰すべき事由によって仕事を完成できない場合は、報酬全額を請求できます。

②売買における担保責任規定の改正(上記8を参照)に合わせ、仕事の目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない場合(注文主の提供した材料の性質又は注文主の与えた指図による不適合については請負人が材料・指図が不適当であることを知りながら告げなかった場合に限る)は、注文者は、請負人に対し、履行の追完の請求、報酬の減額請求(新設)、損害賠償請求及び契約の解除ができることになりました。 

③建物その他の土地の工作物については深刻な瑕疵があっても注文主は契約を解除できませんでしたが、このような場合でも解除できることになりました。

④注文主が請負人の担保責任を追及するためには目的物の引渡から1年以内(建物その他の土地の工作物の建築請負の場合は引渡から5年(堅固なら10年)以内且つ滅失・損傷から1年以内)の権利行使が必要でしたが、注文主は、土地工作物であるかを問わず、契約不適合を知ってから1年以内にその旨を請負人に通知すればよく権利行使はその後でもよいことになりました。

 

18 寄託

①寄託契約の成立には物の交付が必要でした(要物契約)が、合意のみで寄託契約が成立することになりました(書面不要)。寄託者は、受寄者が寄託物を受け取るまでは契約を解除できますが、受寄者に生じた損害を賠償する義務があります。無報酬の受寄者は、書面による寄託を除き、寄託物を受け取るまでは契約を解除できます。報酬を受ける受寄者及び書面による寄託の無報酬の受寄者は、相当期間を定めた催告後も寄託者が寄託物を引き渡さない場合は契約を解除できます。

②受寄者は、寄託物について権利を主張する第三者が受寄者に対して訴えを提起等した場合は寄託者に事実を通知する義務を負うのみでしたが、寄託者の指図がない限り寄託者に寄託物を返還しなければならないことが明文化されました。但し、受寄者が訴えの提起等を寄託者に通知した場合等において、寄託物を第三者に引き渡すべき旨を命ずる確定判決等があり当該第三者に寄託物を引き渡したときは寄託者に対する返還を不要です。

③寄託物の一部滅失・損傷による寄託者の損害賠償請求又は受寄者の費用償還請求は、寄託者が寄託物の返還を受けてから1年以内に行わなければならないことになりました。寄託物の一部滅失・損傷による寄託者の損害賠償請求は、その間時効完成が猶予されます。

④混合寄託(受寄者が複数の寄託者から保管を寄託された同一の種類品質の物を混合して保管し、後に同じ数量を返還する類型の寄託)について、各寄託者の承諾が必要であること、寄託物の一部が滅失した場合は各寄託者が総寄託物に対する自己の寄託した物の割合に応じた数量の寄託物の返還を請求できることが明文化されました。

⑤消費寄託(受寄者が保管を委託された物そのものではなくそれと種類・品質・数量の同じ物を返還する寄託)については、寄託の規定を適用することを原則とし、担保責任については消費貸借の規定(価額償還)を準用することとし、預貯金については受寄者がいつでも返還できるが寄託者は定めた返還時期前に返還されたことによる損害の賠償を請求できることになりました。