経営者が知っておくべき債権法改正(その5)

2021.08.21

法的支援

今回は、以下のポイントについて解説します。

12 相殺禁止
13 第三者弁済
14 危険負担
15 消費貸借

12 相殺禁止
不法行為債権を受働債権とする相殺(例えば、加害者が被害者に対して有する貸金債権をもって損害賠償債権と相殺する)は、不法行為の誘発防止や被害者保護の観点から一律禁止されていましたが、相殺禁止となる債務は(1)悪意による不法行為に基づく損害賠償債務(誘発防止の観点)と(2)生命身体の侵害による損害賠償債務(不法行為債務に限らない)(現実弁済の必要性の観点)に限定されました。これにより、双方の過失による交通事故で一方が無資力の場合に他方が自己の債務のみ全額弁済しなければならないといった不都合が解消されます。

13 第三者弁済
利害関係を有しない第三者は債務者の意思に反して弁済をすることができず、債権者は利害関係を有しない第三者からの弁済を拒むことがきませんでしたが、(1)弁済につき正当な利益を有しない第三者による弁済が債務者の意思に反することを債権者が知らなかった場合はその弁済は有効となり、(2)弁済につき正当な利益を有しない第三者は債権者の意思に反して弁済できないようになりました。これにより、債務者の意思に反するかどうかを知らない債権者が受けた弁済が無効となるおそれがなくなり、債権者は見知らぬ第三者からの弁済を拒絶できるようになりました。

14 危険負担
特定物に関する物権の設定又は移転を目的とする双務契約において債務者の責めに帰すべき事由によらないで目的物が滅失又は損傷した場合は、債権者の負う反対給付債務は存続する(債権者主義)とされていました。例えば、建物の売買契約締結後に建物が地震により滅失した場合、買主は代金債務を支払う義務を負うことになります。改正法では、当事者双方の責めに帰すべき事由によらずに債務を履行できなくなった場合は、債権者は反対給付債務の履行を拒める(債務者主義)ことになりました。但し、債権者の責めに帰すべき事由により履行できなくなった場合は、債権者は反対給付の履行を拒めません。なお、売買の目的物を引渡した後に双方の責めに帰すべきでない事由により目的物が滅失損傷しても、買主は代金支払を拒めません。

15 消費貸借
消費貸借は金銭等が交付されるまで効力を生じないこととされていますが、書面(電磁的記録を含む)の合意による消費貸借の成立が認められました。この場合、借主は、金銭等の交付を受けるまでは契約を解除できますが、貸主に生じた損害を賠償する義務があります。借主は、返還時期の定めの有無にかかわらず、いつでも返還することができますが、返還時期を定めた場合は、期限前返還により貸主に生じた損害を賠償する義務があります。